今回の長崎産魚便で一番楽しみにしていたのがこれ。アンコウ目・フサアンコウ科・フサアンコウ属のホンフサアンコウ。従来はたんに「フサアンコウ」と呼ばれていた種。学名はChaunax fimbriatusでヒルゲンドルフが記載。深海性で水深590m以浅の海に生息しているが、まれに水深30mほどの浅瀬からダイバーにより撮影されたこともある。
特徴としては体側に緑色の斑点がなく、背鰭の軟条部前方に浅いくぼみがあること。また、背鰭棘の基部に薄い黄色斑があるのも特徴である。これらの特徴により、ミドリフサアンコウとの識別は難しくはないであろう。体色は褐色で、体には小さな白い毛のような皮弁が生えている。
日本産でもう1種ホンフサアンコウに似ているものにハナグロフサアンコウというのがいる。ハナグロというくらいだから吻部が黒いというわけでなく、見分けは誘引突起のあるくぼみが重要になる。ハナグロフサアンコウは誘引突起のあるくぼみ後端は眼前縁を結ぶ線に達していない。一方このホンフサアンコウでは誘引突起のあるくぼみ後端は眼前縁をむすぶ線を超えるのでハナグロフサアンコウとの見分けはさほど難しくはないだろう。以下にホンフサアンコウとハナグロフサアンコウの頭部の比較写真を掲載する。なお黒い線が眼前縁を結ぶ線であり、白い線が誘引突起のあるくぼみの後端を示す。
ホンフサアンコウの頭部
ハナグロフサアンコウの頭部
ホンフサアンコウのくぼみと眼前縁を結ぶ線の位置関係
ハナグロフサアンコウのくぼみと眼前縁を結ぶ線の位置関係
今回ホンフサアンコウを入手したことにより、日本産フサアンコウ科の魚3種を入手した。日本産魚類検索に出てくる3種すべてそろったことになる。もう1種は近年日本初記録種として報告されたアカフウセンという種で、これは生鮮時体は一様に赤くて斑紋がないため日本産の既知の種と見分けることができる。とりあえず、入手したフサアンコウ科魚類3種をご紹介。
ミドリフサアンコウ 三重県尾鷲市 底曳網漁業
ハナグロフサアンコウ 沼津市戸田 ヘンテコ深海魚便(底曳網漁業)
ホンフサアンコウ 長崎県近海(釣り物?)
このホンフサアンコウは全長364mm、標準体長265mm、重さ1246.5gある大型個体であった。上記の写真の個体よりふたまわりくらい大きい。ハナグロフサアンコウやミドリフサアンコウも体調30cmを超えるというが、このホンフサアンコウも大きく迫力がある。しかしながら生殖腺は発達していなかったため雌雄は不明。しかし肝も胃も大きく内臓も食いごたえがありそうなものであった。まずは肛門からハサミを入れ内臓を出していった後、皮をはぐ。アンコウなどは皮も食べるがホンフサアンコウは皮に小さな棘が密生しているので皮は食べにくい。そのためあらかじめ皮をはがすようにしたいところである。
フサアンコウ科の魚は鍋物、汁物、揚げ物にして美味である。そしてだいたいが、そのような調理法になりがちである。しかし今回は刺身にしてみた。身はやわらかい。決してまずいわけではないが味は比較的薄く、ポン酢などがよく似合う。刺身の上に肝をのせて食べると絶品。
汁物は定番。肝や胃なども入れて美味しく食べることができる。初めて食べるホンフサアンコウを我が家で楽しみまくった。今回のホンフサアンコウも、フサカサゴ&ヒメアンコウと同じく長崎県「魚喰民族」石田拓治さんより。いつもありがとうございます。