かわいい、しかもアンコウの仲間だから美味しい!ミドリフサアンコウなのですが、この魚は実は昔から食べられてきたわけではないようです。1979年ごろ 故・阿部宗明博士が新顔の魚で、「従来食物としてはほとんど問題にされていなかったフサアンコウ類まで・・・(略)店頭に出るようになった」とされております。こういう従来捨てられてしまうような魚も食用にできるということで、廃棄される魚が減って、水揚げされる魚が増えればよいのでしょうが、魚函を積み込むにも限度があるので、思うようにはなかなかいきません。
尾鷲は前から述べましたようにさまざまな漁業があるため、魚の種類も様々。このミドリフサアンコウは、底曳網で漁獲されます。
アンコウ目の魚は頭部に疑似餌を有するのが多いですが、本種も小さいのを持っています。主に甲殻類や魚類を食べ、ウナギ目魚類が胃の中から出てきたこともありました。
アンコウの仲間ということで加熱して食べるのが一番おいしいでしょう。鍋でもよいのですがおすすめは汁物!ご家庭に2匹あれば、一家四人分にはちょうどいいのではないでしょうか。内臓は鰓以外ぶち込みます。皮はあらかじめはいでおきます。アンコウは皮まで食べられるのですがこのミドリフサアンコウの皮はビロードのようで、なかなか鍋で食べるには抵抗があるかもしれないのです。
今回は尾鷲の魚ではなく、長崎の魚。英語ではエンペラー、皇帝の名をいただいているフエフキダイ。
「フエフキ」の名前で流通しているのはハマフエフキか、このフエフキダイが多いよう。本種とハマフエフキの違いは、体高が高い、低いのほか、この形質から区別されます。
フエフキダイの胸鰭をめくってみたところ。胸鰭基部内側ですが、この部分に鱗はほとんどないのが、フエフキダイです。
ハマフエフキの方は、胸鰭基部内側にたくさんの鱗があります。密集する感じですね。今回はハマフエフキが入手できなかったので、イソフエフキさんの胸鰭が出演ということになりました。他に、アマクチビ、イトフエフキ、ハナフエフキ、タテシマフエフキなどがこのように密集する鱗を有します。逆に鱗がほとんどないのは、シモフリフエフキ、キツネフエフキ、ホオアカクチビ等です。
フエフキダイの刺身!薄造りでいただきました。脂はよくのっていまして、結構おいしかったです。
尾鷲は黒潮もよく入ってくるようで熱帯性の魚がみられることもあります。タカサゴ科のササムロCaesio caerulaurea Lacepède, 1801も、熱帯・亜熱帯に多い魚です。
ササムロは、最近、南日本の太平洋岸ではよく見かけるようになった種のようです。日本に生息するタカサゴ属魚類は4種いるようですが、おそらくこのあたりでは本種が一番多いのではないでしょうか。WEB魚図鑑でも三重県で採集されたササムロの写真が掲載されておりました。
今回の尾鷲では定置網でササムロが3個体漁獲されていました。3個体全部いただいてきましたが、1個体は他の方にお譲りしました・・・。
尾鷲では定置網漁業も盛んで、何か所かの定置網が陸に魚を上げて選別する様子は圧巻です。その中に定置網ではあまり見ない種類の魚がいました。ヒメジ科・ウミヒゴイ属のオジサンParupeneus multifasciatus (Quoy and Gaimard, 1825)です。
オジサンといえば、ユニークな名前の魚として各種媒体に取り上げられていますが、その名の由来は勿論下あごに髭があるからでしょうか。英語名の一つであるゴートフィッシュも、ここからきているでしょう。一方でウミヒゴイ、ヒメジという和名はどうやらこのひげと関係なく、鮮やかな赤い色彩から「姫魚」「緋女魚」「海緋鯉」なんだそうです。英名でもう一つのMulletはボラの意味。なるほど、背鰭が二基に分かれているところはボラに似てますね。
オジサンの特徴は、体側に縦帯がなく、体側後方に2本の黒色横帯があること。フタスジヒメジや、フタオビミナミヒメジも体側に黒色の縦帯がありますが、これらの種では黒色縦帯の位置が違います。さらに言えば、フタオビミナミヒメジは、国内では小笠原周辺でしか知られてないとか・・・。
●定置網のヒメジの仲間
定置網でもヒメジの仲間はいくつかの種類を見ることができます。ここでは尾鷲の定置網に入ったほかのヒメジの仲間をご紹介。
オキナヒメジParupeneus spilurus (Bleeker, 1854)。ウミヒゴイ属の種類です。写真の個体は真っ赤っ赤ですが、頭部には白っぽい縦線が入っています。尾柄に大きな黒色斑があるのも特徴です。本種にそっくりなものに「ホウライヒメジ」がおり、これは写真には撮れませんでしたが、オジサンと一緒に網に入っていたのでした。どちらも大きいのでは40cmくらいになります。
タカサゴヒメジParupeneus heptacanthus (Lacepède, 1802)。これは全長25cmを超えるヒメジですが、今回遭遇した2匹はやや小さ目。写真の個体は全長13.9cm、まだまだ若魚といったとこでしょうか。全身赤みを帯びて横帯も縦帯もないのですが、第1背鰭の下の赤色斑が目立ち、鱗にも青っぽい斑点があります。
ヒメジUpeneus japonicus (Houttuyn, 1782)。ヒメジはウミヒゴイ属ではなく、ヒメジ属になります。ヒメジ属の魚はやや体高が低く、尾鰭には縞模様が入った種類が多いです。ヒメジの尾鰭下葉には縞模様がなく赤くなっているのが特徴的。ひげは黄色っぽいです。全長15cmほどになります。ウミヒゴイ属と比べると鱗がはがれやすいでしょうか。体側の鱗がなくなってるようです。
このほか定置網ではアカヒメジ、キスジヒメジ、ヨメヒメジ、などが入り、場所によってはコバンヒメジやウミヒゴイなども入るようですが、入るヒメジの種類は大体決まっているようで、定置網で漁獲されたオジサンを見たのは今回が初めてでした。ほかに本州から九州の太平洋岸にみられるウミヒゴイ属のうち、インドヒメジ、オオスジヒメジ、フタスジヒメジなども見たことがありません。いずれの種類も浅い場所からやや深い岩礁周辺の砂地にみられるもので、よく入るオキナヒメジと同じような環境に出現するのですが、網にかからないです。奇妙なものです。
尾鷲魚市場で見かけたカワラガレイPoecilopsetta plinthus (Jordan and Starks, 1904)です。
カワラガレイは、八幡浜では殆ど利用されていないようですが、尾鷲ではこのような小型のカレイ類も持ち帰り、木箱にならんで、セリにかけられています。もっとも、この種類だけではなく、いくつかの種のカレイが混ざって一つのトロ箱の中に入っているような感じではありましたが。この中にはほかにガンゾウビラメ、ヤナギムシガレイ、ミギガレイが入っておりました。全長は142mm、成魚では体長150mmになるということで、成魚に近いサイズでしょうか。
カワラガレイは従来カレイ科に入れられていたものですが、最近はカワラガレイ科という独立した科のものとされてることが多いです。同じように独立した科とされる、ベロガレイ科の魚にもよく似ていますが、無眼側にも胸鰭があることでベロガレイ科の種類と見分けられます。写真でも見えにくいですが、胸鰭がうつっていますね。また有眼側の側線が大きく曲がることや尾鰭の黒色斑が2個で目立つのも特徴です。
カワラガレイは小型種ですが、尾鷲で立ち寄った干物屋さんでは、本種をミギガレイ同様に干物にしておりました。我が家でも軽く乾燥させ焼いて食べてみましたが意外と美味しく、捨てるのはもったいない魚です。