我が家の庭にいたジョロウグモさん。ですが、ここ数日、クモの餌になるような昆虫をほとんど見ていません。雨が強く、気温もガクっと下がってしまったのが理由でしょう。もう11月も折り返し、昆虫はほとんど冬眠の準備にはいったのかもしれません。
先日沖縄本島近海からやってきたサンゴ礁の魚たち。まずやってきたのが、スズキ目・イトヨリダイ科・キツネウオ属のキツネウオ。
キツネウオはサンゴ礁域に多く生息している種。チョウチョウウオ類とは異なり、淡い体色をしていてあまり人気はないが、よく見たら美しい色をしている。また幼魚は鮮やかな青い体に2本の黄色線が入るという、なかなか美しい色をしている。東インドー西太平洋に10数種が知られているが、日本にはキツネウオ、ヤクシマキツネウオ、イトタマガシラの3種が分布するだけである。ほかの種も分布は狭いものが多く、インドー太平洋域の広域にすむ、というものは皆無である。またイトヨリダイの仲間自体、分布域はインドー中央太平洋域に限られており、西は南アフリカまで見られるが、東はフィジーくらいまでで、マルケサス諸島やハワイ諸島には分布せず、アメリカの西岸や大西洋にはいない。地中海のものはスエズ運河開通後に紅海から入ってきた種のみである。
キツネウオの頭部。たしかに細長くてキツネみたいである。学名はPentapodus caninusというが、Canis、つまりイヌと関係があるだろうか。FishbaseのコモンネームではSmall-toothed whiptailと呼ばれている。小さな歯の鞭の尾という意味であるが、「Whiptail」というのはキツネウオ属の英名でもある。この属の尾鰭上葉、もしくは上・下葉が長く伸びるものが多い(一部伸びない種もいる。また幼魚は伸びない)。
体側の2本の帯がある本種は、琉球列島に多く見られるタカサゴの仲間にも似ている。追い込み網や釣りなどで漁獲されるが、味はタカサゴには及ばない。ただし塩焼きなどにして食べるとそこそこ美味である。日本においての分布域は屋久島と琉球列島で、九州以北からの標本に基く記録はあるか不明。九州以北ではキツネウオ属の魚としては、長崎魚市場で得られた個体をもとに記載されたイトタマガシラがよく知られており、この種は館山から九州までの太平洋・東シナ海沿岸に見られる。今回のキツネウオはHN「どぅハタ」さんから頂いたもの。ありがとうございます。
今年の四国の海で驚いたのは、どこの漁港も、例年以上にソラスズメダイが文字通り「湧いて」いたこと。この漁港では毎年ソラスズメダイを見ているのだが、今年は特にすごい。そしてこの場所にもソラスズメダイを狙う魚、キリンミノやアカエソなどがいたりする。彼らの暮らしもソラスズメダイに支えられるようだ。
ソラスズメダイと一緒に泳いでいるのは黄色い尾鰭のオトメベラ。こちらは例年並みにいる。しかしソラスズメダイはこれほど湧いていても、潮だまりには全く入ってこないのは不思議なものである。小さな針で釣ることもできるが、性格は荒いし、入れても青い色はやがて薄れることが多い。
今日は久しぶりに水中写真。写真はスズキ目・フサカサゴ科・ヒメヤマノカミ属のキリンミノ。ミノカサゴ属とは胸鰭鰭条が分岐しているなどの特徴により見分けられる。
普段はこんな姿勢で餌の魚に近づく。左の奥のほうに妙な視線を感じるが...
カサゴである。カサゴはこの水中写真を撮影した場所ではいつも見られる普通種であるが、これはなかなかの大きさである。このカサゴの住む岩穴にはほかにもキンセンイシモチやミスジテンジクダイなどテンジクダイ科の小型種が多く生息しているが、逃げる様子はない。逆にこれらの魚もカサゴのことを「用心棒」として利用しているのかもしれない。
わかりにくいが、カサゴとキリンミノのツーショット。キリンミノはフサカサゴ科で、カサゴはメバル科。撮影していたときもキリンミノはそこそこよく泳いでいたが、俊敏ではなく、逃げるときもゆったりとした感じであった。一方カサゴはずっと岩にへばりついて頑張っていたが、手を差し伸べるとあっという間に姿を消してしまった。常にじっとして「ここぞ」というときのためにエネルギーを蓄えていたのかもしれない。普段はキリンミノも決して「たくさんいる」という感じではないのだが、今年は当たり年だったのかもしれない。大きいのも小さいのもあちらこちらに見られた。その分、小型のテンジクダイの仲間は少なかった。
今日も長崎の魚を。長崎からやってきた、初めて見るタイ科の珍しい種のご紹介。スズキ目・タイ科・チダイ属のヒレコダイ。
ヒレコダイは背鰭が非常に長く伸びているのが特徴であるが、同じ属のもう1種であるチダイも鰭がよくのびることもあり、この点だけでは見分けることが難しいようだ。体高はヒレコダイのほうがやや高く、体長は体高の2.2倍以下。一方チダイでは体長は体高の2.1倍以上という特徴がある。チダイはこのヒレコダイよりもずっとよく知られている食用魚ではあるが、残念ながら私はまだチダイの写真を持っていないのである。
「チダイ」の標準和名の由来は鰓蓋が鮮やかに赤くなることからきている。チダイは鰓膜の鮮紅色部が広く、ヒレコダイでは狭いとされている。写真のものはヒレコダイだが、チダイよりは狭く不明瞭に思える。ただしこれも確実な見分け方とは言えないように思える。
チダイの斑点は普通点状であるが、ヒレコダイの体側には細かい青い線が入っているのが特徴的である。これについても確実な見分け方とはいえないらしい。ヒレコダイにも点があるのがいるらしい。つまり「どちらに近いか」というように同定するしかないかもしれない。もっとも、それが同定というのかは難しいところではあるのだが。
静岡県などの太平洋岸にも分布しているが、主な分布域は九州西岸などの東シナ海である。このほか台湾、中国、海南島、トンキン湾にかけても見られる。チダイは北海道南部~九州までの各地沿岸、朝鮮半島に分布している。インドネシアのバリ島からも得られているようだが、当地ではチダイは極めて珍しく1個体しか得られていないらしい。沖合の底層に分布し底曳網で漁獲されることが多いのだが、この個体には大きな釣り針がついていたので、釣りで漁獲されたのだろう。実際にヒレコダイはジギングなどでも、ごくまれに釣れることがあるという。
個体数は少ないが、九州西岸、特に長崎方面ではたまに漁獲され、市場に出て食用になる。刺身はチダイよりもはるかにうまく、マダイに近いうまさのように感じた。今回のヒレコダイも前前回のヒシコバン、前回のホウセキハタと同様に長崎県 印束商店の石田拓治さんより購入したもの。いつも、珍しい魚をありがとうございます。