週間東洋経済(2010.1.30) 原田泰・「科学技術で豊かになれるのか」より転載(元データは文科省「科学統計要覧」)
この図は日本の研究費は年年増大し、GDPに対する割合も各国より大きい。なお、この図だけからは日本のGDPの推移はわからないが、GDP総額は伸び悩んでいる。特にここ10年は500兆円という額はほとんど変わっていない。つまり、どんどん研究費を投じてはいるが、あまり経済成長していない。(⇒愚記事:日米中のGDPの推移)
一方、ここ15年、日本政府は第1期基本計画では17兆円、第2期基本計画では24兆円というそれぞれ5年間の投資総額を投じている。
(上の図の研究費は官民あわせたものと思われる。長期不況で民間の研究費の増加は抑えられたので、上記の日本の増加は政府支出分(税金)の寄与が大であろう。)
もちろん、「科学研究者」による、国が富まなくなって関係ない、ワレワレは科学そのものをやっているのだからという反論はすじが通っている。*1
しかし、その反論は一部しか言い訳しない。なぜなら、予算獲得の大義名分として、『基礎研究は産業化のために必須である』と現場研究者、および監督官庁の官僚たち、あるいは御用学者、そして政治家たちは主張していたからである。 (2010年に25兆円産業を目指すとぶちあげておきながら、2008年現在で2兆円を少し超す程度)
まだかなりの人が科学研究(基礎研究)と技術研究(応用研究)を混同しているらしい。そしてどちらかというと技術研究を評価する視点で双方を捉えている。これは怖い。もし社会の役に立つかどうか(リターンが見込めるか)という統一基準で科学研究と技術研究が取捨選択されるなら、ほぼ間違いなく科学研究は全滅する。 potasiumchの日記、(外から見た)事業仕分け雑感
そうだと思う。問題は故意か、無定見にかtax eater科学技術者がこの混同をおこし、予算(税金)を使ってしまったことだ。さらに悲惨なことは、お金なら取り返しもつくかもしれないが、あまたの若者を科学技術に動員し、挙句の果てに官民あわせても科学技術の職がないという「人材つぶし」を行ったことである。
故意か、無定見にか、という問題について、学者センセの無邪気な誤解であるらしい傍証がある;
坂東昌子氏(元?日本物理学会長)の発言(新聞に出たそうだ) 「真のイノベーションを創生するには、基礎力が問われる。基礎科学の復権こそ、科学技術立国を目指す日本の喫緊の課題であり、そのためにポストドクターはもっと有効に活用されてしかるべきだと思う」
ここで、たまたま出典があったので、坂東昌子氏の例を示したが、この『基礎科学は産業の源泉、根拠、基礎である』という命題を多くの科学者が持っているらしい。迷信である。
大達成当時は、
学士サマ、 修士サマ。
「偽」のイノベーションの創生?
一方、『基礎研究は産業化のために必須である』という神話を、故意に悪用する科学研究者もいることはずいぶん前から指摘されている。
ほんとうは研究だけしたい研究者が,産 業だの経済だのにちっとも興味がないくせ に,「基礎→応用,あるいは研究→開発→生 産→販売,としてやがて金儲けの種になる んだ」,あるいは「科学→技術→産業という,この矢印の方向で産業を発展させるためには, 科学をちゃんとしなきゃいけないんだ」ということを,その研究予算の請求書の冒頭に書く わけですね。とにかく基礎研究をしたい人が予算を獲得するのに非常に好都合だった。リニ ア・モデルは終わったと20 年前から言われながら,なお生き延びている大きな理由が,これ であると私は思っています。 西村 吉雄、「線形モデルの終焉について」
PS; (現行日本のやり方の)科学技術が経済成長に不可欠という認識は政治家にもあるようで、今朝のNHKの日曜討論で江田憲司(?)代議士や公明党の代議士が、科学技術振興予算の重要性を訴えていた。 現場と実情(予算は研究者の道楽のために蕩尽されている)を知らない空論である。
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*1; 上図で英国の研究費が1980-90年代に続落している。元祖ネオリベのサッチャー改革だ。それにしても、このように研究費が減少しても、英国からノーベル賞受賞者は今日に至るまでコンスタントに続出している*2。もちろん研究費は必須だが、カネさえつぎ込めばなんとかなるだろうという成金根性には沁みる嫌味ではある。
*2; ノーベル賞受賞者で科学技術の達成を測るという 俗悪な 高尚なことはおいらの趣味ではないのだが、日本の科学界はノーベル賞狂なので、その判定基準を日本の科学界の流儀に"敬意"を表し今回使ったまで。
*参考
■日本の科学振興費は少ないのか。財務省によると、政府の科学技術振興費は約20年で3倍増した。2倍増の社会保障関係費を超える伸びだ。国と民間を合わせた研究開発費も対GDP(国内総生産)比3・57%で、ドイツの2・36%や米国の2・02%などをしのぎ、主要国では随一の水準という。 人への投資を怠ってはならぬ 「科学技術立国日本」再考
■鳥かご開祖の末裔; ・ ⇒⇒ お題:第103回「事業仕分けと大学(1) 科学技術は「投資」なのか」
・第106回「科学技術への投資は意味があるのか」