日本人や欧米人の人質を殺害し、それに直接関与したとみられる容疑者が乗っていた車を米軍が空爆した。NHKはいつもの通りで「暴力に暴力で対抗する」ことの無意味さを、殺害された後藤健二さんの母親に語らせていた。坂本多加雄は『知識人 大正昭和精神史断章』において福田恆存が述べていた政治について触れている。「相対的な世界では、社会が個人を、あるいは個人が社会を、肯定したり否定したりする梃の支点は見いだせません。結局、相手を承服させるには、権力、武力、多数決、それしかない。そのばあひ前二者によるのをファシズムと考へ、後者によるものをデモクラシーと考えてゐますが、まつたくたわいないことです。そんなものではない。西欧デモクラシーの社会はその三つを自由に操ります」(「個人と社会」)」と書いていたからだ。やられたらやり返すのである。それは現実を直視しているからである。その一方では福田は「それらと対立するものとして、暗黙のうちに絶対の観念が人々を支配している」ことの大切さも説いた。つまり、それは坂本に言わせれば、マックス・ウェーバーが指摘した「魂の救済を危うくするのではないか」との恐れの意識を抱くかどうかなのである。そして、坂本は「政治が道徳的にいかがわしい手段によって営まれる点では、自由主義諸国も社会主義諸国も同様である。しかし、そうした手段をまさしくいかがわしいと見るような、絶対者に繋がる個人の視点を容認するか否かで両者は異なるのである」とも論じていた。政治の現実は認めざるを得ないが、それでいて個人倫理を否定してはならないのであり、そこまでの議論をしなければ、もはや私たちは危機の時代に対処することはできないのである。
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