連載小説「Q」28
「上がりなさい」
思わず順平は言った。
光一はぺこりと頭を下げた。
キャリーバッグと荷物は玄関に置いたまま、順平の後に従った。
家の中は別世界だった。
老人の足もとはおぼつかない。
時々壁に手を置いた。
「この奧が風呂場や。体を拭いたら、かまへんからタオルは畳んであるのを使(つこ)たらええ」
光一は顔を洗った。
次にしわくちゃになったハンカチを洗い、思い切り絞り、顔と首筋と胸を拭いた。
タオルは使わなかった。
そして、鏡に映っている自分の顔に笑顔を投げた。
――天使に会った。
風呂場を出ると、廊下を挟んで居間になっていた。
坐卓があり、その前に老人が座っていた。
麦茶の二リットル入りが置いてあり、ジョッキがある。
老人は、光一に坐るように促した。
「麦茶しかあらへんけど。どうぞ」
光一はジョッキに麦茶を注ぎ、一気に飲み干した。
「もう一杯いただきます」
「どうぞ。買い置きもあるから遠慮せんと飲み。ところで……」
老人は言った。
「君は誰ですか?」
連載小説「Q」#1-#20をまとめました。
「上がりなさい」
思わず順平は言った。
光一はぺこりと頭を下げた。
キャリーバッグと荷物は玄関に置いたまま、順平の後に従った。
家の中は別世界だった。
老人の足もとはおぼつかない。
時々壁に手を置いた。
「この奧が風呂場や。体を拭いたら、かまへんからタオルは畳んであるのを使(つこ)たらええ」
光一は顔を洗った。
次にしわくちゃになったハンカチを洗い、思い切り絞り、顔と首筋と胸を拭いた。
タオルは使わなかった。
そして、鏡に映っている自分の顔に笑顔を投げた。
――天使に会った。
風呂場を出ると、廊下を挟んで居間になっていた。
坐卓があり、その前に老人が座っていた。
麦茶の二リットル入りが置いてあり、ジョッキがある。
老人は、光一に坐るように促した。
「麦茶しかあらへんけど。どうぞ」
光一はジョッキに麦茶を注ぎ、一気に飲み干した。
「もう一杯いただきます」
「どうぞ。買い置きもあるから遠慮せんと飲み。ところで……」
老人は言った。
「君は誰ですか?」
連載小説「Q」#1-#20をまとめました。