創作日記&作品集

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連載小説「Q」44

2020-05-22 06:22:25 | 小説
連載小説「Q」44 
『眠り』はやっかいなものだ。
娘も娘壻も妻も、人前で熟睡するが、順平には出来ない。
通常の眠りでも、殆ど夢を見ている浅い眠りである。
金縛りになり、夢から抜け出せないこともある。
順平にとって睡眠は休息ではない。
蒲団に潜り込んで、ふと、死んだ自分を想像してみると、生きている順平はとても不思議な動物である。
『伊勢物語』最終段を開けて読む。
 つひにゆく道とはかねて聞きしかど 
 きのふけふとは思はざりしを
「ころ」
と呼んだ。
すぐそば来て、毬で遊びはじめる。
「お前は寝やんでええねんなあ」
コロはごろりと横になる。
まぶたを閉じている。
頭を撫でてやると、喉を鳴らす。
お前は猫か。
奇妙な生きものと生活しているような気になった。
秋になると、台風に怯えた。
自分が住む奈良にだけは来ないでくれと祈った。他はどこにでも来てください。
冬になるとインフルエンザに怯えた。
そして、いつものように大晦日、正月を迎える。
正月二日には一族郎党が集まった。
初孫がマニキュアをしていた。
「どうしたん。爪から血出てるで」
といちびった。
誰も笑わなかった。
その時はまだ平和だった。
連載小説「Q」#1-#40をまとめました。