創作日記&作品集

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連載小説「Q」31

2020-05-09 06:18:04 | 小説
連載小説「Q」31
「名前は?」
「まだありません。お客様がつけて下さい」
光一が言った。
「コロにしよう。昔この辺は家も少のうてなあ。用心悪いさかい言うて、親に押しつけられて飼った犬の名前や。ほっとらかしにして、死んでしもた。40年以上前の話やけど。こいつは死なんわな」
「ええ」
と、光一は短く答えた。
 ――年寄りを騙していないか?
という疑念が心に浮かび上がってきた。
金属のかたまりを犬と称する偽善。
電子の脳が演出する心。
先輩に打ち明けると、
――お前はあほか」
と、言われた。
――お客様も了解済みだよ」
「コロ」
順平の声に光一は我に返った。
コロは、尻尾をふりながら順平に近づき、甘えた声で鳴いた。
順平はコロの頭を撫でた。
盛んに尻尾を振る。
順平は他のことを考えた。
人との会話の時、他のことを考えるのは順平の癖である。
だから人との交流が上手くいかない。
唐突に話題を変えて、人を驚かせる。
光一も自分から話の穂を継ぐことはしない。
二人とも沈黙はそれほどいやなものでない。
順平は四十年前のことを思い出していた。 
順平は薬品管理室にいた。
前の薬局長の自慢の薬品在庫管理だった。
帳簿は一薬品一枚のカードで管理されている。
全品目のカードが、円形の回転する装置に入っている。
そこからガラガラと音を立てて目的のカードを取り出す。
入出残を伝票から記入する。
月締めは、それらを全て集計する。 
薬剤師一人と事務員一人がかかりきりだった。
月末には長時間の残業になった。
その仕事を順平が一人でコンピューター化した。
コンピューターはNECのPC-9800、プログラミング言語はN88-BASIC。
連載小説「Q」#1-#30をまとめました。