連載小説「Q」41
九月の初め、急に蝉がなき止んだ。
ピタリと。
和田さんも山口さんも来なくなった。
夕食の宅配も終わった。
宅配の主婦は一度会ったきりだ。
担当が変わっていたかもしれない。
それでも弁当はきっちり届いた。
細い糸が切れたような気がした。
和田さんも山口さんも二度と会うことはないだろう。
金魚鉢と金魚だけが残った。
そして、今日妻が帰ってくる。
順平は、ふと、偕老同穴(かいろうどうけつ)という言葉を思い出した。
結婚式で「偕老同穴」と言う言葉を使った祝辞があった。
結婚式のことは殆ど忘れてしまっているが不思議とこの言葉だけは覚えている。
言ったのは主賓だと思う。
聞いたときは淫らな感じがした。
結婚してから五十年近く経つ。
五十年も妻と一緒に生活している。
「偕老同穴」だなあと思った。
妻の癌は消えた。
連載小説「Q」#1-#40をまとめました。
九月の初め、急に蝉がなき止んだ。
ピタリと。
和田さんも山口さんも来なくなった。
夕食の宅配も終わった。
宅配の主婦は一度会ったきりだ。
担当が変わっていたかもしれない。
それでも弁当はきっちり届いた。
細い糸が切れたような気がした。
和田さんも山口さんも二度と会うことはないだろう。
金魚鉢と金魚だけが残った。
そして、今日妻が帰ってくる。
順平は、ふと、偕老同穴(かいろうどうけつ)という言葉を思い出した。
結婚式で「偕老同穴」と言う言葉を使った祝辞があった。
結婚式のことは殆ど忘れてしまっているが不思議とこの言葉だけは覚えている。
言ったのは主賓だと思う。
聞いたときは淫らな感じがした。
結婚してから五十年近く経つ。
五十年も妻と一緒に生活している。
「偕老同穴」だなあと思った。
妻の癌は消えた。
連載小説「Q」#1-#40をまとめました。