日本酒は米、水、温度、麹等の違いが千以上ある酒蔵と更にその中での作り方により、幾万のバリエーションを生んでいる。端麗辛口の新潟の地酒ブーム以降、地酒は寒冷地との傾向が強く、個人的にも石川、秋田、福島の酒は好きだ。
千葉の酒も仕事の関係上よく飲むが実にいい酒が多い。千葉県には酒蔵の数が50近くあり、全国的にも決して引けをとらない蔵がある。しかし、千葉の酒は案外知られていない。宣伝が下手なせいか、酒造りは寒冷地が適しているとの迷信のせいか。
もともと千葉県は温暖なせいか食べ物に不自由しない土地柄である。そのため外に出る必要のない県民性は温厚で保守的である。そんなことが原因であるような気がする。
しかし、県民性は全国的にも酒が好きな県民だ。漁獲高でも全国一、農業生産高でも北海道に続いて全国2位。こんな土地で季節の節目やイベントの度に酒を飲まない分けがない。寒い時期も暑い時期も一年を通して飲める酒が愛されているのだ。事実、若い時分から千葉県民とつき合う機会が多かった「お神」は機会があるたび千葉の酒とつき合ったのだ。
年間通して飲める酒が多い千葉の酒にあって、とりわけ九十九里の「梅一輪」、南房総の「腰古井」、「岩の井」、「木戸泉」など旨い酒だと断定できる。いずれも太平洋岸の地区にある。これらの酒は、全国的にもトップクラスの酒だ。「梅一輪」の九十九里地区の地下水はかん水といってヨード分が多い。このためか、この蔵は南房総の山間部の名水を使用していると聞いている。この水が旨い酒のポイントであるようだ。当然、南房総の蔵も、この山間部の水で酒造りを行っている。
飲み屋で、プレミアムのついた高い酒がいい酒だという風潮は、本当の酒飲みは決して快く思っていない。本当は自分が若い頃から慣れひたしんできた酒をベースに評価し、プレミアムの度合いが正当かを判断して今後も飲む飲まないを決めるものだ。
そういう意味でも前出の蔵の酒は素晴らしい酒である。個人的には舌にとまどいを感じた時は、育ててくれた千葉の酒で原点を見直すことにしている。