散日拾遺

日々の雑感、読書記録、自由連想その他いろいろ。
コメント歓迎、ただし仕事関連のお問い合わせには対応していません。

井山がツケた

2013-10-16 22:05:24 | 日記
井山裕太がまたやっている。

第38期名人戦挑戦手合い、山下名人を3勝1敗と追いつめての第5局が今朝から甲府で始まった。

黒番の井山わずか13手目、下辺にヒライた白石の鼻先に、いきなりツケた!
何を始めるのかと言うところだが、あらましの意図は(たぶん)僕らにも想像がつく。
白の応手(ここでは上ハネ)と換わり、これを利きにして左下の折衝を有利に進めようというのだ。
先に書いた「盤面全体を使って手筋のパズルを考えている」というのはこのことで、序盤から長考する習癖もこれと関連しているに違いない。

一日目の今日はわずか35手、下辺の黒一団は僕らには窮屈に見えるのだが、むろん成算があるのだろう。大きな石を捨て打つという選択肢も、プロの「成算」の中で常に意識されている。
あるいはこの一団も、どこかで捨てにいくのかもしれない。

本格的に捨て石が使えたら、碁がまたどれほど楽しくなるだろう。
誰でも本能的に石を取りたがるものだ。
石を取らせて大利を稼ぐなんて、カッコよくないか?!

明日の二日目が楽しみだ。
個人的には平成四天王の巻き返しを望むけれど、グランドスラム・六冠王の井山裕太が誕生するならそれも良い。

どっちも頑張れ!

倒木/ある裁判

2013-10-16 20:51:48 | 日記
2013年10月16日(水)続き

台風26号で、職場敷地内の木が一本倒れた。
ビルに挟まれたところにヤマモモが何本か植えてある、そのうちの一本である。
ビルの狭間は風が特に強く吹く。そのあおりを受けたものだろう。

伊豆では16人が亡くなり、もっと増える可能性もある。
早朝、境川で女性が流された。その名の通り、東京都と神奈川県の境を画す川で、桜美林キャンパスと淵野辺駅の間のいちばん低い部分を流れている。この川沿いによく走ったものだ。この暴風の朝、なぜ女性がそこにいたのかはわからない。



***

名古屋地裁でこの八月に出された判決に、毎日新聞が疑問を投げている。
91歳の認知症男性が線路内に立ち入り、電車にはねられて亡くなった。
事故によって生じた列車遅延に関してJR東海が遺族に損害賠償を求め、名古屋地裁がこれを認めたというものだ。
記事で見る限り、これは遺族にとって酷であるように思われる。
全国の介護家族の意欲を低下させるという指摘も、もっともである。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20131016-00000008-maiall-soci

こういう時にこういう連想が働くのも嫌なことだが、首都圏で毎日のように起きる「人身事故」に関して、鉄道会社はいちいち損害賠償を求めているのかどうか。

弁護士になっている友人が、「可哀そうでも請求する余地を残した方が、鉄道自殺の抑止には役立つのかもしれない。別のやり方に流れるだけなら意味はないけれど」と語ったことがある。その口吻からして、今はそういう請求は為されないものかと思い、それはそれで一考の余地があると感じたものだ。然るにこの件、それも認知症者の介護家族に対する賠償命令をどう考えたものだろうか。

当事者Aと当事者Bの敵対的関係に白黒つけるものと考えたら、損害賠償をめぐる裁判はやりきれないものになる。
けれども、生じた損害を関係者一同がどのように分担するのが適切か、その判断を通じて社会のあり方を改善するのに資するとすれば、そこにはまったく違った意義が生まれてくる。

その意味でも残念だ。



漢音の仕掛け人?

2013-10-16 12:58:24 | 日記
2013年10月16日(水)

フロア全員集合で一斉作業。

前泊組は快眠をむさぼったが、通勤組が大変だった。
車で3時間を見込んで家を出た女性教員のV先生、冠水やら倒木やらで難儀の末、遅れて到着。

皆が途中を案じるのに、「人の車を押したりしていたもので・・・」と申し訳なさそうにおっしゃる。
"Women changed."
今年で退任なさるL先生が、嬉しそうにつぶやいた。

*****

作業の合間にふと気になった。
漢音の仕掛け人(14日のブログ参照)は誰だったんだろう?
遣唐使船の帰朝便に乗ってきたことは間違いないのだ。

さっそく手許で検索をかける。
http://homepage3.nifty.com/ayumi_ho/ganzinraizitu/nennpyo.htm
こんなサイトで一覧表がすぐ出てくる。便利な時代になったものだ。

古事記の選上が712年、日本書紀は720年、その間の遣唐使派遣は一回だけ、
717(養老元)年の第9次遣唐使だ。
多治比県守(押使)・大伴山守(大使)・藤原馬養(副使)などは見てもピンと来ないが、同乗者連が錚々たる顔ぶれである。
阿倍仲麻呂・吉備真備・玄・井真成・・・

阿倍仲麻呂はそのまま唐に残り、例の望郷の歌を千載に遺すことになる。
 天の原ふりさけみれば春日なる三笠の山にいでし月かも
往復ともに遭難の危険の多い難路だったが、この回の遣唐使は翌718年に無事帰朝した。
この船に乗ってやってきた唐人が直ちに書記の編纂に力を貸したとして、720年の選上に間に合ったかどうか。

もうひとつ前の第8次遣唐使はどうだろうか。
702(大宝2)年派遣、704(慶雲元)年帰朝。
使節団は粟田真人(執節使)・高橋笠間(大使)・坂合部大分(副使)・・・皆目分からん。
しかし同乗者の中に今回も大物がいる。
山上憶良、そして道慈・・・

704年に渡来した唐人が仕掛け人だとすると、しかし712年選上の『古事記』にも影響を与えていて良さそうだ。

う~ん、微妙だな。
おっと、午後の作業を始めなくちゃ。




台風26号/プロなら打たない

2013-10-16 09:19:00 | 日記
2013年10月16日(水)

昨日は午後早めに移動して千葉の本務先に入り、セミナーハウスに宿泊。
今日の一斉作業に備え、14名のコース同僚のちょうど半数が前泊している。
みんな偉いなぁ、僕は内心ブツブツ文句言っていたが、みんなは当たり前のように迅速対応。

セミナーハウスは質素なビジネスホテルぐらいのところ、清潔な寝床と故障してないバス・トイレがあるなら、何も文句はない。久しぶりに9時間以上もぐっすり眠った。時々これもいいかな。

10年に一度の強力台風26号、予報通り昨日中はひたすら雨、明け方からは風で大暴れだ。
それをよそに快眠を楽しんで、最後は聞き覚えのある音で目を覚ました。
小さな可愛い音が、部屋のどこかで規則的に続いている。
眠りの通奏低音として聞き過ごすと、大変なことになるよ、と記憶のどこかで囁く声があって、むっくり身を起こして見回すと・・・

あそこだ、雨漏り!
天井の一角で表装がめくれかえり、そこから伝った滴が腰の高さの窓枠に水たまりを作って、あふれた水が床に落ちる音が、ピタ、ピタ、ピタ・・・
『ふるやの森』だ、何だか懐かしいな。
今時の子どもに「雨漏り」といっても、実感のないことだろう。

9時前、セミナーハウスから研究室へ移動。
お掃除のおばさんにキーを返すついでに、雨漏りのことを伝えておく。
「まぁ、それでお休みになれましたか?」と優しい。
小柄で僕よりはずっと年上と見えるが、この強風の中を朝から仕事しているのだ。訊けば、
「稲毛というところから、一時間ほどかけて歩いてきました。」
こともなげに言う。
「日本は仕事が速いから、先生が帰られる時間には電車も動いているでしょう。」
鉄道復旧の早さに劣らず、こうして日々の仕事を雨ニモ負ケズ、風ニモ負ケズに続けておられる、おばさん、あなたが日本の誇りですよ。

稲毛なら父から聞かされて懐かしい地名だ。
どうぞ帰りはお気をつけて。

*****

10時からの作業開始前に、研究室から初投稿。
囲碁ネタ続きで申し訳ない。

梅沢あらため吉原由香里六段、囲碁の普及に大いに貢献する日本棋院のひとつの看板だが、NHK杯に出場して見事勝利を挙げる実力者でもある。夫君はプロサッカー選手でJリーガー、家で碁を教えたこともあるが、あるとき夫婦ゲンカが尾を引いた勢いでボコボコにして以来、頑として対局してくれなくなったと六段自身が語っていた。

強い人なんだが、ときどき大ポカのあるのが親しみの持てるところで、これは師の加藤正夫さん(故人)と共通しているかもしれない。
週刊『碁』、「これぞプロ」コーナーで、その「ポカ」が紹介されてしまった。
記事のポイントは、吉原六段の「不用意な一手」を見逃さなかった鈴木伸二四段の明敏にあるのだが、「プロなら誰でも見逃さない」と前号予告で言われたのは、これに先立つ吉原の一手が「プロなら打ってはならない」と酷評されているのと変わらない。
この手は御本人もショックだったと見え、「赤旗」だったか「週刊新潮」だったか(ずいぶん違うな)の囲碁記事でも、自身が「次の一手」問題として出しておおられた。これが立派だと思うのだ。
感じの良い人だ。

そこで昨日に続き、翻って我が身を思う。
精神科医としての僕は好手・妙手もあるかわり、「プロなら打たない一手」にポカで手が伸びる危険も、人より多くないだろうか。

一局の勝敗ならいざ知らず、人命に関わることであってみれば・・・