2014年7月20日(日)
博士課程開設に伴い、土日の校務がまたぐっと増えた。御苦労様なことだ。
礼拝に出ている時間がないので、日曜出勤までの手すさびに第2話。
***
朝早く、屋根の上に光がさしはじめるが早いか、小さな煙突掃除屋さんはお仕事を始めます。大きなブラシで煙突をゴシゴシやって、きれいになると嬉しいのでした。合間にはカラスと目で挨拶したりします。一羽一羽よく知っているのです。小さな白い雲がうんと低く降りてきた時には、ふっと吹いて向こうへ押してやりました。そして煙突掃除屋さんは、しょっちゅうこんなふうに歌うのでした。
「ずうっと下には大きな世界、上(ここ)にいるのは何て幸せ!」
けれどもお昼ごろになると、小さな煙突掃除屋さんは少し疲れてきます。そこでいつも決まってお昼寝をするのでした。春のある日、煙突掃除屋さんが今しもアクビをしているところへ、コウノトリのお母さんが飛んできて言いました。
「学校の屋根の上に、私たちの巣があるんです。」とコウノトリのお母さん。
「小さな煙突掃除屋さん、お疲れの時はうちで横になるといいですよ。」
二度は言わせず、煙突掃除屋さんはさっそく出かけて行って、コウノトリの雛たちの間に潜り込んで手足を伸ばしました。そこは申し分なく快適で、柔らかく温かく、小さな煙突掃除屋さんはすぐにも眠りに落ちそうになりました。
そこへコウノトリのお父さんが帰ってきたのです。お父さんはたいへんな近眼で、おまけに眼鏡をかけていませんでしたから、煙突掃除屋さんを見ててっきり雛の一羽に違いないと思いました。
なんとまあ、とお父さんは考えました、この子は真っ黒けじゃないか、一度ちゃんと餌を食べさせてやらなくちゃ、そうすればもっと綺麗になるだろう。
そこでコウノトリのお父さんは、小さな煙突掃除屋さんのために、太った緑のカエルを1匹くわえてきました。
「クチバシを開けて!」
お父さんは号令をかけました。
煙突掃除屋さんはぎょっとして縮みあがりました。といいますのも、カエルなどは決して食べたくなかったからです。
「イヤです!」
煙突掃除屋さんは叫びました。
「イヤです!」
その拍子にカエルはコウノトリのお父さんの口から落っこちて、跳びすさりました。カエルは悲しげに、煙突掃除屋さんに訴えました。
「助けてください」とカエル。
「私はクヴァーケフィックスと言って、カエルの仲間の大臣なのです。」
そこで小さな煙突掃除屋さんは屋根から降り、哀れなクヴァーケフィックスを池まで連れて行ってあげました。カエルたちがみんな集まって来て、御礼の気持ちをこめて歌を歌ってくれました。クウォンク・クウォンク・クウェンク、クウォンク・クウォンク・クウェンク・・・
小さな煙突掃除屋さんは胸がポカポカと温かくなりました。それから屋根の上に戻りましたが、コウノトリの巣で横になることはもう二度としませんでした。コウノトリの風習はいささか自分とは違うことを、今ではよく知っていたからです。
***
今日も小さな裏切りがそこここに。それはさておき、
Tief unten liegt die große Welt,
Wie gut es mir doch hier gefällt!
「ずうっと下には大きな世界、上(ここ)にいるのは何て幸せ!」
こう訳した部分で思い出した。
ワーグナー『ラインの黄金』フィナーレでは、宝を奪われたラインの乙女たちが、逆に川底から天に向かって嘆きの歌を歌う。
Traurig und treu ist nur in der Tiefe,
Falsch und feig ist was dort oben sich freut!
忠実と誠はただ深みにこそ、
高みでは虚偽と卑劣が栄えるばかり!
むろん、上下が問題ではない。
地上の世界を上から相対化するか、下から相対化するか、
等しく異界からの挑戦である。
博士課程開設に伴い、土日の校務がまたぐっと増えた。御苦労様なことだ。
礼拝に出ている時間がないので、日曜出勤までの手すさびに第2話。
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朝早く、屋根の上に光がさしはじめるが早いか、小さな煙突掃除屋さんはお仕事を始めます。大きなブラシで煙突をゴシゴシやって、きれいになると嬉しいのでした。合間にはカラスと目で挨拶したりします。一羽一羽よく知っているのです。小さな白い雲がうんと低く降りてきた時には、ふっと吹いて向こうへ押してやりました。そして煙突掃除屋さんは、しょっちゅうこんなふうに歌うのでした。
「ずうっと下には大きな世界、上(ここ)にいるのは何て幸せ!」
けれどもお昼ごろになると、小さな煙突掃除屋さんは少し疲れてきます。そこでいつも決まってお昼寝をするのでした。春のある日、煙突掃除屋さんが今しもアクビをしているところへ、コウノトリのお母さんが飛んできて言いました。
「学校の屋根の上に、私たちの巣があるんです。」とコウノトリのお母さん。
「小さな煙突掃除屋さん、お疲れの時はうちで横になるといいですよ。」
二度は言わせず、煙突掃除屋さんはさっそく出かけて行って、コウノトリの雛たちの間に潜り込んで手足を伸ばしました。そこは申し分なく快適で、柔らかく温かく、小さな煙突掃除屋さんはすぐにも眠りに落ちそうになりました。
そこへコウノトリのお父さんが帰ってきたのです。お父さんはたいへんな近眼で、おまけに眼鏡をかけていませんでしたから、煙突掃除屋さんを見ててっきり雛の一羽に違いないと思いました。
なんとまあ、とお父さんは考えました、この子は真っ黒けじゃないか、一度ちゃんと餌を食べさせてやらなくちゃ、そうすればもっと綺麗になるだろう。
そこでコウノトリのお父さんは、小さな煙突掃除屋さんのために、太った緑のカエルを1匹くわえてきました。
「クチバシを開けて!」
お父さんは号令をかけました。
煙突掃除屋さんはぎょっとして縮みあがりました。といいますのも、カエルなどは決して食べたくなかったからです。
「イヤです!」
煙突掃除屋さんは叫びました。
「イヤです!」
その拍子にカエルはコウノトリのお父さんの口から落っこちて、跳びすさりました。カエルは悲しげに、煙突掃除屋さんに訴えました。
「助けてください」とカエル。
「私はクヴァーケフィックスと言って、カエルの仲間の大臣なのです。」
そこで小さな煙突掃除屋さんは屋根から降り、哀れなクヴァーケフィックスを池まで連れて行ってあげました。カエルたちがみんな集まって来て、御礼の気持ちをこめて歌を歌ってくれました。クウォンク・クウォンク・クウェンク、クウォンク・クウォンク・クウェンク・・・
小さな煙突掃除屋さんは胸がポカポカと温かくなりました。それから屋根の上に戻りましたが、コウノトリの巣で横になることはもう二度としませんでした。コウノトリの風習はいささか自分とは違うことを、今ではよく知っていたからです。
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今日も小さな裏切りがそこここに。それはさておき、
Tief unten liegt die große Welt,
Wie gut es mir doch hier gefällt!
「ずうっと下には大きな世界、上(ここ)にいるのは何て幸せ!」
こう訳した部分で思い出した。
ワーグナー『ラインの黄金』フィナーレでは、宝を奪われたラインの乙女たちが、逆に川底から天に向かって嘆きの歌を歌う。
Traurig und treu ist nur in der Tiefe,
Falsch und feig ist was dort oben sich freut!
忠実と誠はただ深みにこそ、
高みでは虚偽と卑劣が栄えるばかり!
むろん、上下が問題ではない。
地上の世界を上から相対化するか、下から相対化するか、
等しく異界からの挑戦である。