2015年9月3日(木)
「しのぎ」という言葉の響きが好きなんですが、これ実は案外多義なんだね。 動詞「凌ぐ」から転じた「凌ぎ」という名詞がひとつあるが、それだけではない。大辞林三版から転記する。
【凌ぎ】
① その時の障害や困難に耐え、またそれを克服すること。また、その手段。「当座の ー にはなるだろう。」
② (「一時をしのぐ」意から)会葬者に振る舞う食事。非時食(ひじじき)。
③ (接尾辞的に用いて)しのぐこと。「その場 ー 」「「退屈 ー 」
そして、もう一群あるんですよ。
【鎬】
① 刀身の、棟と刃の中間で鍔元から切っ先までの稜を高くした所。鎬筋。
② [建]角材の上端を真ん中で高く両端へ山形に削った背峰。
③ 風炉の灰型の高く角張っている部分。
④ 柄杓の名所(などころ)。螻首(けらくび)より下の柄をいう。
いちいち挿絵がいるが、それは省略するとして、以下トリビア。
★ 「鎬を削る」が正しく、「凌ぎを削る」は誤り・・・考えれば当然。しかし、「鎬を削る」状況ってすごいな。
★ その道の用語で「しのぎ」といえば、「暴力団の資金稼ぎ(の仕事)。「でかい ー 」」。(サンコクから。大辞林は載せてない。)山口組の本部が名古屋の弘道会に移るとかで、関係者は落ち着かないことだろう。
★ 囲碁用語の「シノギ」は、「攻められている一団の石を首尾よく生きておさまること」の意。やっぱり「凌ぎ」から来たんだろうね。シノギ上手になりたいんだが、なかなか難しい。技術だけでなく、冷静さとか厚かましさとか、複合的な資質が必要なようだ。
ちなみに、今日から第40期名人戦七番勝負が始まっている。シノギ勝負が見られるかもな。
*** 以下、「古語辞典」 (小学館)から ***
「凌ぐ」は「ものを自分の下へ押さえるようにする」が原義であろう。
① 押しのけ、押し分けて進む 「秋萩 - ぎ鳴く鹿も」(万葉集 1609)
② 押さえたわませる 「高山の菅の葉 - ぎ降る雪の」(万葉集 1655)
③ あなどる、犯す、争う
④ 堪える
「互いに鎬を削り合い、時を移して戦ひけるに、新田四郎は新手なり、十郎は宵よりの疲れ武者・・・」(曾我物語)
曾我兄弟 歌川国芳画 (https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%8C%E5%B7%9D%E5%9B%BD%E8%8A%B3)