2015年9月13日(日)
昨日の朝のこと、空いた土曜日の電車に三人連れが乗り込んできた。白人の男女と、アジア系と見える若い女性の三人連れ。この女性は大きなサングラスをかけているので顔立ちがよく分からないが、コンダクター役らしく、スマホを見ながら「シロカネタカナワでチェンジする」のだと説明している。
白人の二人は僕ぐらいの身長で、彼らの種族の中では小柄と見えるが、男性は耳たぶがツブれている。柔道家やラグビーのフォワードによく見られる例の耳たぶで、そういえば締まってゴツゴツした体躯に、何やら重そうな荷物を背負っている。視線が合うとにっこりするので、どこから来たのと英語で訊けば、案の定アメリカ人だという。「どこへ行くの?」と訊いたら、コンダクター役の女性が「武道館です」「というと、九段下?」「いえ、綾瀬の」。日本武道館ではない、東京武道館なのだ。
「柔術の大会があるんです。」それで耳の謎が解けました。「日本語、カンペキですね」「私は日本人なので」・・・お見それしました。アメリカ住まいのアジア人みたいな雰囲気だったので。カレシの友人らが柔術大会に出場するため来日中で、会場まで案内するところなんだそうだ。
「英語が上手だけど、どこで勉強したの?」と、今度は白人女性が僕に訊く。彼らは日本語が全くできず、日本人女性は英語がまるっきりなので、4人の輪で話しているのに会話が完全に二分されておかしい。はい御馳走様、セントルイスに3年ほどおりましたので、「ほんと?彼はそのエリアの出身よ、カンサスシティ・ミズーリ」。ミズーリの行政上の州都は、セントルイスではなくカンサス・シティである。セントルイスよりずっと小さいが日本領事館があり、ビザの更新のために日帰りで出かけたことがある。街を見物する余裕はなかったけれど、待合室にあった内田春菊のマンガが面白かったっけ。
「Was that good?」・・・アメリカ滞在は良かったかと訊いている。誰でもお国の評判は気になるものだ。すごく良かったよ、みんな親切で、good old Mid-West を実感した・・・これは外交辞令ではない、本音である。アメリカ嫌いとは全く別の話、国は国、人は人である。男性の方が、「今朝地震があったよね?」といくぶん声をひそめて言う。「あれって、大きいやつだったの?」
確かに朝の5時台、震度4ほどの割合大きな揺れがあった。震度3ぐらいだと気づかずに寝ていることも多いので、起床時刻寸前とはいえそれで目が覚めたのは、比較的大きな揺れの証拠ではある。「まあまあ、ぐらいかな」「ふぅん・・・」。屈強の柔術家が本気で怖がってるらしいのが、気の毒なような可笑しいような。
伝説では、日本の地下にでっかい catfish が住んでいて、それが暴れると地震が起きるんだと教えてやった。女性の方がカカカと笑い、男性は「legend? ふぅん・・・」と妙に真面目な顔で聞いている。それぞれどんな試合をするんだろうか。
そもそも柔道ならぬ柔術の試合って、どんなのだろう?相当激しいものに違いない。講道館からブラジルへ伝わって彼の地で育ったブラジリアン柔術はじめ、海外で発達した流派もあるらしい。異本で廃れた古流派が海外に残る例もあるのだろう。日本の文化を愛し継承する人々は、それだけで小さからぬ親善の業に貢献している。
「You guys have a good day and a good fight.」「OK, thanks.」
握手して別れたのでした。
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(国際日本文化研究センター 怪異・妖怪画像データベースより http://www.nichibun.ac.jp/YoukaiGazouCard/U426_nichibunken_0188_0001_0000.html)