
1月5日 ワットが蒸気機関の改良の特許を取る
> 1769年1月5日、イギリスの技術者ジェームズ・ワットは、 ニューコメンの蒸気機関を改良し、 特許をとっ た。(中略)これらの発明により、 鉱山の排水をくみ上げる道具に過ぎなかった蒸気機関は、 紡績機や蒸気機関車へと発展していくのである。
『ぽんこつ』のある部分にからんでみたが、作品そのものをくさす意図は少しもなく、それどころか描かれた人々も時代も実に生き生きしているのに一驚する。ぽんこつ屋の「まけとし」こと熊田勝利は、「人さまとの応対だと、トンチンカンなことばかりやってるけど、機械さえいじらして置けば、なかなか確かなもの」と雇い主が請け合うような機械の虫で、今でいうならコミ障の機械オタクというところかもしれない。昔からいたこの種の人びとがすっかり生きづらくなってしまっているのである。
この勝利が、お育ちのいい女子学生二人を相手に持論を開陳するくだり:
「これからの機械文明ちゅうもんは」
…勝利は水が流れ出したように、かねてからの所信(?)をひれきしはじめた。
「電子工学がまず、えらい進歩をするんや。昔機械というもんが出来た時に、何とか革命というものが起こって」
「産業革命でしょ」
美沙子が言った。
「そうや。その産業革命がおこって、人間の腕や足の力のかわりを機械がやるようになった。なんぼ力の弱い男でも、機械のあつかい方さえよう知っとったら、指一本で何トンもある機関車走らせたり、二万トンもある船動かしたり出来るようになったんやろ?ところが、今度は何がおこりよるかと言うたら、電子工学の進歩で、機械が人間の頭のかわりするようになる、知ってますか?(中略)外国語をどんどん日本語に翻訳して出す機械も出来とるんや。僕みたいな頭の回転のおそい人間にはありがたいことや。力の弱い人でも重い物動かせるのと同じように、頭の悪い人間でも、機械の扱い方だけ勉強しといたら、どんなむつかしいことでも、機械に考えさせたらええんやからな。電子頭脳というものは、まだまだ進歩するわ。自動車かて、いつかも僕が言うたでしょう。今に、太陽電池か原子力か、とにかくガソリンとは別のもん燃料にして、電子頭脳のロボット操縦装置で、ハンドルなんか無しで走るようになるにきまってる。僕らは、今からその時のことよう考えて、機械にできるだけしたしまな、嘘ですよ」
美沙子はあくびをした。
(『ぽんこつ』ちくま文庫版、P.215-7)
AIに電気自動車に自動運転、主人公勝利の、ということは作家阿川弘之とその情報源が、正しくも「今に」と予測したことが、60余年後にようやく現実となりつつある。これは遅いか、それとも早いか?
現在は第四次産業革命の真っただ中、第五次産業革命を望む時代だというが、それらが意味することすら自分はよく知らずにいる。熊田勝利、アッパレの条。
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