またしても訃報である。あのイアン・マクドナルドが亡くなった。享年75歳。癌を患い闘病中だったらしい。ニューヨークの自宅で、家族に囲まれながら安らかに息を引き取ったそうな。偉大なるミュージシャンがまた一人いなくなってしまった。謹んでご冥福をお祈り致します。
イアン・マクドナルドと言えば、なんといっても、まずはキング・クリムゾンだろう。オリジナル・メンバーとして1969年のデビュー・アルバム『クリムゾン・キングの宮殿』に参加し、50年以上を経た現代に於いても超名盤としての評価を欲しいままにするデビュー・アルバムに多大な貢献をした。曲作りはもちろん(収録曲の作曲クレジットは、は基本的にはメンバー+ピート・シンフィールドとなっているが、タイトル曲と「風に語りて」はイアン・マクドナルドとピート・シンフィールドの二人だけのクレジット)、演奏面でもマルチ・プレイヤーとしての才能を発揮している。アルバムのクレジットを見ると、イアン・マクドナルドの担当は“reeds, woodwind, vibes, keyboads, mellotron, vocals”となっていて、これだけでも十分だが、ギターのクレジットはない。けど、「エピタフ」や「宮殿」のアコースティック・ギターは、実はイアン・マクドナルドが弾いている、という話もあり、実はクリムゾンはイアン・マクドナルドのバンドだったのだ、とも言える訳で、実際、イアン・マクドナルド(とマイケル・ジャイルス)が脱退すると言い出した時、ロバート・フリップは、それなら自分が辞めるから思いとどまって欲しい、と逆に提案したそうな。当然ながら、フリップも分かっていたのだ。クリムゾン=イアン・マクドナルドなのだ、という事を。
僕もクリムゾンに関しては完全に後追いなので、フリップのコンセプトの元に動いているバンド、と思い込んでいたのだが、『宮殿』を買った際、前述のクレジットを見て音を聴いて、バンドの中心はイアン・マクドナルドだったのだ、とようやく理解した。地味だけど凄い人だったのだ。
キング・クリムゾンを脱退してから、マイケル・ジャイルスとの『マクドナルド・アンド・ジャイルス』を発表。こちらも一見地味ながらも名盤であり、人気も高い。1971年の発売以来、一度も廃盤になっていないというから、その人気のほどが窺える。個人的には、かなり後追いで聴いたのだが、「明日への脈動」とか好きです。
そして、時は来たりて1977年、イアン・マクドナルドはフォリナーの結成に参加する。バンド自体はミック・ジョーンズが中心で、イアン・マクドナルドはいわばサポート役、共同プロデューサーにも名前を連ねているが、完成した1stアルバムに於いて、少なくともサウンド面では、イアン・マクドナルドはさほど目立っていない。元クリムゾンのメンバーがいる、という事で話題になり、フォリナーに注目した人も多かったようだが、フォリナーの音には、特にプログレらしさとかクリムゾンらしさとかは感じられなかった。サックスやフルートを演奏している曲も2~3曲で、それ以外はギターを弾いていたようだ。ただ、少ないとはいえ、イアン・マクドナルドのフルートをフューチャーした「スターライダー」はアルバム中でも聴き物のひとつであるし、ライブでも目玉となっていた。また、アルバム中1~2曲は、イアン・マクドナルドが作曲に関わった曲が収録されていて、それらの曲が良いアクセントとなり、アルバムに深みを与えていた。クリムゾンの頃とは違うけど、やはりバンドに多大な貢献をしていたのである。
イアン・マクドナルドは、1980年頃までフォリナーに在籍し、3枚のアルバムに参加した。ポップでキャッチーだけど、それだけでもないフォリナーの音楽に、欠かせない存在となっていたように思えたので、脱退後の『4』を聴いた時、このハード路線が、イアン・マクドナルドの志向に合わないので脱退したのだろう、と解釈していたが、後にミック・ジョーンズが「イアンには非ロック的部分での貢献に期待していたが、段々それも叶わなくなってきた」と発言しているのを見た事があり、それが本当だとすると、ハード路線に行きたかったのは、イアン・マクドナルドの方だった、という事になる。『4』でのハード路線は、イアン・マクドナルドがいなくなったので、結果的にそっちに行かざるを得なかった、というのが真実なのか。3作目の『ヘッド・ゲームス』では、あまりにもイアン・マクドナルドがギターを弾きたがるもんだから、ミック・ジョーンズも困っていた、という話も耳にした。確かに、ギターが目立つアルバムではあったけど、ミック・ジョーンズからすると、ギタリストは2人もいらない、ってとこかな。今となっては、どうでもいい事ではあるが。
そういえば、数年前のフォリナー同窓会ライブに、イアン・マクドナルドは参加してたのか?
フォリナー脱退後は、目立った活動はなかったけど、1999年にキャリア初のソロ・アルバムを発表した。
非常に申し訳ないのだが、このアルバム、出たのは知ってたが聴いた事はない。なかなか力作のようで、色々なゲストが参加しており、フォリナー時代の盟友ルー・グラムも一曲で歌ってるとか。聴いておけばよかった。ちなみに、イアン・マクドナルドの訃報を受けてのことか、アマゾンの売れ筋ランキングに、昨日あたりからこのアルバムが登場している。
ソロ・アルバムといえば、ウィキペディアによると、2019年にも『Take Five Steps』というアルバムを出してるらしいが詳細は不明。
その後、21世紀になってから、“21世紀の精神異常者バンド”を結成してツアーしてたのは、皆さんご存知の通り。日本にも来たよね。
やや地味だけど、イアン・マクドナルドは非常に才能あるミュージシャンだった。目立つのが好きでないのか、作品も少ないのは事実だけど、今回の訃報に際し、あちこちのニュースの見出しの大半が、クリムゾンとフォリナーだけの人、みたいな感じで、かなり不満はあるが、一般的な認識はその程度かも。ま、仕方ないと言えば仕方ないが、それではあまりにもイアン・マクドナルドが気の毒なので、これを機に再評価されることを望みたい。
ところで、プロデューサー等の裏方としても活動していたイアン・マクドナルドだが、なんと、90年代にはゲーム音楽を手がけた事もあったらしい。飲み仲間(笑)のゆーじさんが教えてくれました。こちらでそれに触れられていますので、是非ご覧下さい。
という訳で、また一人偉大なミュージシャンが、この世を去った。何度も言ってるけど、我々はその現実を受け止めていかねばならない。悲しいことだが。
余談だけど、イアン・マクドナルドが作曲したフォリナーの曲の中では、個人的にはこの曲が一番好きである。『ヘッド・ゲームス』収録。
合掌