唐突だが、中森明菜が去年デビュー40周年だったそうな。早いものである。彼女が登場した時のことは、正に昨日の事のように覚えている。アイドル歌手豊作の年と言われた1982年、小泉今日子、石川秀美、堀ちえみ、早見優など錚々たる顔ぶれが同期にいたが、その中でも中森明菜の実力とスター性は際立っていた。当時、周囲の男どもが、週刊誌のグラビアを見て大騒ぎしていたのを思い出す(笑) 僕はというと、彼女の実力は認めつつも(えらそーに)、彼女自身や歌ってた曲が興味の対象ではなくて、テレビに出てれば見る、程度の存在でしかなかった。ま、その頃の僕のイチ推しは松本伊代だったので^^;、なんとなくお分かり頂けるかと(笑) それが一転したのが「飾りじゃないのよ涙は」だった。
元々、本人の見た目のイメージもあったのだろうが、中森明菜は同年代の歌手と比べると大人びていたというか、歌のテーマもアイドルらしからぬものがあった。それがより顕著になり、明らかに他の歌手と明確に差別化されたのが「飾りじゃないのよ涙は」であり、実際曲自体も衝撃的だったし、その次の「ミ・アモーレ」がこれまた歌謡史に燦然と輝く超名曲だったこともあって、僕にとって中森明菜は一気に注目の存在となったのである。以降、中森明菜はシングルで名曲を連発し、他の歌手たちとは完全に違うステージに進んでいったのだ。
中森明菜は、デビューした頃から、シングル曲の選定や衣装、振り付け等、かなり自分の意見を反映させていたらしいが、それはアルバム制作に関しても同様だったらしい。早い時期から、シングルとアルバムは別物と捉えていたようで、70年代から、歌謡曲の歌手でも、アルバム=シングル集みたいな作り方をしない人たちが増えていたけど、中森明菜はさらにコンセプチャルな方向に向かっていった。ま、要するに、いわゆるアーティスト的なアプローチでレコードを作っていた訳だ。本当は、裏にプロデューサーがいて、彼女は言われるがままに、アーティストっぽく振る舞っていただけではないの、なんて声は当時も聞かれたし、たかがアイドル歌手、なんて言う人も当然多かったし、何が本当なのか、こっちには分からないけど、ただシングル曲の完成度の高さ、ビジュアルも含めてコンセプチャルに作られたアルバム、などから窺えるのは、たとえ有能なブレーンがついていたとしても、中森明菜の作品には確実に彼女の意志が反映されていたのではないか、ということ。当時だって、無理や背伸びをしてる雰囲気はなかったし(同時期に路線変更を余儀なくされた他の歌手には少なからず感じられたが)、その後の一切のぶれや迷いを感じさせない活動を見ても、自身の明確な意志とコンセプトを持っているのは分かる。中森明菜は当時から単なるアイドル歌手ではなかった。
彼女のアプローチで度肝を抜かれたのは、1986年のアルバム『不思議』である。このアルバムで中森明菜が打ち出したコンセプトは、とても歌謡曲系の歌手によるものではない、というか、他のジャンルの歌手でもこういう事はしないであろうものだった。打ち込みを多用した退廃的なサウンドはともかく、ボーカルのレベルをバックトラックと同じにしてしまうなんてね。もちろん、普通に聞いてると歌が聞こえないのだが、歌詞カードを見ながらだと、歌詞やメロディが聞こえてくる、というのも正に不思議。最初、このアルバムを聞いた時は、ちゃんと聞いた事はないが^^;、吉田美奈子のアルバムを連想してしまった。実際、この『不思議』に吉田美奈子も曲提供してるのだが。
と、そんな中森明菜なのであるが、前述したようにデビュー40周年ということで、過去のアルバムが順次再発されている。それも、ワーナー・パイオニアとユニバーサルの両方からである。80年代に所属したワーナーからは、デビュー・アルバムから1988年の『Stock』までが、最新リマスター・ボーナストラック・カラオケCD付きで再発された。まだ続くはず。ユニバーサルからは90年代以降のオリジナル・アルバム9作とカバー・アルバム12作が廉価で再発されている。大変喜ばしい事ではあるが、ワーナー再発のカラオケCDはいらないなぁ(笑) その分、ユニバーサルより高くなるし(笑) カラオケCD付きバージョンと無しバージョンの両方で発売してくれたらいいのに。
という訳で、最近買ったCDから。もちろん明菜です(笑)
中森明菜の1986年のシングルすなわち「DESIRE-情熱-」「ジプシー・クイーン」「Fin」「Tango Noir」の4曲とそのB面曲を収録したミニ・アルバム。タイトル通り、当時はCDのみの発売だった。今はLPも出てるらしい。で、今回の再発にあたり、1986年の「ノンフィクション・エクスタシー」が追加収録されている。余談だが、この曲カセットのみで発売されたシングル曲で、当時、この曲の事は全く知らず、後の『Best Ⅱ』に収録された時、ベスト盤用の新曲だと30年以上も思い込んでいた(爆) ま、ここで聴けるのは、個人的には中森明菜が最も充実していたと思われる時期のシングル曲なんで、とにかくクォリティは高いし、申し分ない。ファンならずともお薦めです。
個人的には、「Fin」とB面の「危ないMon Amour」のカップリングがとにかく最高傑作と思っていて、後年聴きたくなってCDを探したけど、「Fin」はともかくB面の「危ないMon Amour」が収録されているCDがなかなか見つからなかったので、この度の『CD'87』の再発は、ほんと嬉しかったです^^ この時期の中森明菜って、山口百恵を思い出してしまう事が多いのだが、「ジプシー・クイーン」のB面の「最後のカルメン」なんて、「謝肉祭」の頃の百恵ちゃんそのものだ。もちろん、良い意味でね。
続いては、
1985年の作品。この年、中森明菜は永遠の名曲「ミ・アモーレ」を大ヒットさせ、レコード大賞を獲得したのだが、その「ミ・アモーレ」も本作に収録されてます。但し、シングルとはや違うスペシャル・バージョンだけど。この曲以外はシングル曲未収録のオリジナル・アルバムで、大貫妙子、飛鳥涼、後藤次利、NOBODY、忌野清志郎等々の豪華な顔ぶれが曲を提供しており、実にグレードの高いポップ・アルバムである。中森明菜も表情豊かな歌いっぷりで素晴らしい。特に、大貫妙子提供の2曲(「ENDLESS」「マグネティック・ラブ」)は必聴。
本編に加え、ボーナス・トラックとして「ミ・アモーレ」のシングル・バージョン及びB面の「ロンリー・ジャーニー」、「ミ・アモーレ」のアレンジ・歌詞違いバージョン「赤い鳥逃げた」及びB面の「BABYLON」の計4曲が収録されているのが嬉しい。こういうのをボーナス・トラックの鑑と言わずして何と言うのか(笑) カラオケCDは特に必要ないけど^^; この4曲のボーナス・トラックにより、元々名盤なのにさらに充実度が上がってしまった。どうしましょう(爆)
ところで、何と読むのか分からないアルバム・タイトルだが、当時、このLPを貸してくれた友人は、”出し惜しみ”と読むに違いないと言っていた。で、この度の再発CDには、当時のディレクターによる”制作回想記”が掲載されており、その中にアルバム・タイトルに関する記述がある。それによると、「ちょっと出し惜しみじゃない?」と中森明菜が言ったのが、タイトルのきっかけだった、としっかり書いてある。友人の憶測は正しかった訳だ。ただ、ファンの間では”出し惜しみ(D404ME)”と読むのは知られていたらしい。
最後にこれまた余談だが、中森明菜は1986年の『Crimson』というアルバムで「駅」という曲を発表している。ご存知、竹内まりやの書き下ろしで、後に竹内まりや本人もレコーディングしてヒットした。この「駅」について、今渦中の山下達郎(断るまでもなく竹内まりやの夫である)が、中森明菜バージョンの「駅」に憤慨し、竹内まりやに自ら歌うように、そしてその際のアレンジは自分にやらせてくれ、と働きかけて「駅」のセルフ・カバーが実現した、という話をつい最近知った。山下達郎は、後年、竹内まりやのCDのライナーノーツで、名前は出していないが、とあるアイドル系歌手による「駅」のあまりの解釈のひどさに憤りを感じた、と言ってたそうで、これは誰が見ても中森明菜に対する批判であり、まぁ、公の場でケンカ売ってるみたいなもんで、山下達郎ともあろう人が大人げないというか、いやいや、前からそういう人ですよ、となるのか、ま、ともかく、山下達郎は公然と中森明菜を批判した訳で、よく騒ぎにならなかったものだと感心した次第。中森明菜サイドの反応はどうだったのか? 確かに、この度のジャーズ発言もそうだけど、山下達郎ってそういう人といえばそういう人なんだよね。別にどうでもいいけど(笑)
この「駅」という曲、『Crimson』で初めて聞いたので、本家と比較するも何も中森明菜のバージョンしか知らなかったのだが、第一印象は、暗い曲だなぁ、というもので、中森明菜のカラーにぴったりと言えばぴったり。竹内まりやも、そこいらを見据えて「駅」を書いたらしい。逆に言えば、竹内まりやのカラーではない曲、という気もする。山下達郎は単なるおせっかいか(笑) でも、竹内まりやって、人に提供した曲を後から自分で歌ってるの多いけど、そういうのってどうなの? 提供された歌手にとっては、あまり面白くないのでは、と思うんだけど。ここいらも、山下達郎が裏でけしかけてるっぽい(笑)
という訳で、中森明菜なんである。90年代以降はかなりマイペースな活動になってしまい、カバー・アルバムのシリーズは評判良かったし、充実した活動してるように見えたけど、色々お騒がせな人でもあるみたいで、あまり人前に出てこなくなってしまって、才能があるだけに勿体ない。数年前、NHKの紅白に中継で登場して歌ったのを見たけど、それが実に良かった。老け込んだ様子はないし、声もちゃんと出てたし、まだまだやれる、と思ったけど、また引っ込んでしまった。ほんと、再び表舞台に戻ってきて欲しい、と切に思うのであります。特に熱心なファンではないけど^^;