プロ野球シーズンも終わり、いよいよストーブリーグと思っていたら、今年はFAだのトレードだのより、WBC問題の方が騒がしいようだ。
WBC、ご存知の通り、World Baseball Classicの略で、要するに野球の国際大会である。2006年に第一回が開催され、日本が栄えある初代チャンピオンに輝いたのは、記憶に新しい。そのWBC第二回大会が来年行なわれる訳で、日本はディフェンディング・チャンピオンとして、連覇を目指し一枚岩となって大会に臨まなければならないのである。
所が、ここへきて、その足並みが乱れている。そもそも、今回のWBCは混乱続きだった。まず監督を誰にするか、という問題で揉めた。北京オリンピックの野球チームの監督を務めた星野仙一がそのままWBCチーム監督に就任する、というのが規定路線だったらしいが、オリンピックでメダルも取れない4位という結果に終わったことで、星野の監督就任に批判的な意見が多くなってきた為、現巨人監督の原辰徳が就任する事になった。そして、山田久志をはじめとするコーチ陣も決定し、メンバー選考を行なった所、中日からリストアップされていたメンバー全員が参加を辞退した為、チームぐるみのボイコットだという非難の声が上がり、一週間程前に、中日の落合監督が会見を開き、ボイコットを否定した。この会見での、落合監督の発言が、また物議を醸している、というのが現状である。
落合監督は、WBC代表に選ばれた場合、行く行かないは選手個人の意志であり、球団はそれを尊重すると述べた上で、「行きたくないと選手が言っている以上、無理強いはしないのは当たり前。辞退理由をはっきり言わなかった事を批判されているようだが、そもそも辞退理由を明記するよう求められていないのだから、それも当然。故障している選手をWBCに強行出場させるのは、球団・選手双方にとってマイナスにしかならない。WBCで選手が潰れても、NPBが補償してくれる訳でもない。選手はWBCを辞退する権利がある。」という意味の発言をした。これが日本プロ野球に対して非協力的とされ、批判の対象になっている訳だ。
ちなみに、この落合発言、大半のメディアからは批判されているが(あの文春、新潮ですら、落合批判に回っている)、ネットの掲示板等を見てると、落合を擁護する声も多い。
まぁ、あれこれ意見はあると思うが、この一連の経緯を見てると、釈然としないものもある。なんといっても、根幹となるWBCの位置づけというのが、あまりにも曖昧である事だ。
前述したが、WBCとは野球の国際大会である。と言えば、サッカーやラグビーなど、他競技では当たり前開催されているワールドカップの野球版か、と思ってしまうのだが、実際にはちと違うようだ。このWBC、主催がMLBであり、他のスポーツのように、国際サッカー連盟とか国際ラグビー評議会とか、国際的組織が開催するものではない。言うなれば、MLBが開催する大会に、他国も参加するという形式のものであって、いわゆる国際大会とは異なる。
2年前の第一回大会でも明らかだったが、WBCは日程・ルール等々MLBが有利になるような仕組みになっている。それは今回も変わらない。日本のプロ野球関係者が、WBCに難色を示すのは、開催時期の問題が大きい、と言われている。キャンプ或いはオープン戦という、シーズンに向けて調整を行なう大事な時期に開催される為、選手を取られたりして、チーム作りに影響が出る、という訳だ。あまり騒がれなかったけど、前回の時も、選手を出す・出さないで結構揉めたらしい。結果として、出場してたのはパ・リーグの選手が多かったような気もしたし。
今回もMLB主催だが、日本で行なわれるアジア予選は読売新聞の主催らしい。国際大会といってるのに、民間企業が主催というのもヘンな話であって、なんとなく各チームともそれほどやる気ないような気もする。中日から選手が出ない、という事で批判されているが、他チームも本音は似たようなもんだろう。「うちだって、出したくないけど、日本プロ野球のためと思って、我慢して協力してるのに、中日は何なんだ」という気分になるのは分かる。
野球の場合、これまで“国際大会”“代表”という概念は、ほとんどなかった。サッカー少年に将来の夢を尋ねると、「代表になってワールドカップに出たい」と答えるのが多いと思うが、野球少年で「代表に入りたい」と答えるのは、ほとんどいないだろう。ワールドカップのピッチに立つのが、選手としての最終目標、と考える者が多いサッカーに於いては、代表に選ばれたら、ケガ等の理由がない限り、辞退する者はいないだろうけど、野球にはそういう土壌はない。プロとして公式戦で良い成績を残して、年俸を上げて貰うのが第一と考えてるのが大半と思う。だから、栄えある代表に選ばれても辞退する選手がいるのも当たり前だ。
しかし、これからの時代、野球の国際化は避けられない、という声をよく聞く。日本人でもメジャー球団と契約するのが珍しくない時代である。もっと世界中に野球を広めなければならない、その為にはワールドカップを開催し、野球自体を国際的にアピールしていくべきだ、という意見もある。なにせ、オリンピックの公式種目から削られるくらいだからね。ま、とにかく、野球をワールドワイドなスポーツにして、井の中の蛙から脱却しよう、とアメリカをはじめとする野球先進国は考えている訳だ。日本はともかく、自国で一番になったチームを“ワールドチャンピオン”などと称するアメリカまでもが、そういう意識を持つようになった、というのは、野球の国際化に向けての、大きな一歩であるのは間違いない。
その割には、盛り上がっていないような気もするのだ。前回だって、アメリカはメジャーリーガーの参加は少なかったはず。日本に於いても、アジア予選が行なわれたことさえ知らなかった人も多かったのではないかな。監督だって、王貞治氏にいつの間にか決まっていた(オレだけか?)。国際大会とは言ってるけど、球団も選手もファンも、それほど盛り上がっていなかった、というのが第一回の現実ではないのか。結果的に注目を集めたのは、日本チームが決勝ラウンドに進んだからだ。今回だって、前回優勝してなければ、ここまで話題にはならなかっただろう。
要するに、WBCといえ、それほど権威のあるものではない、という事だ。誰かが言ってたけど、積極的に監督をやりたがってる人がいない、というのが、そもそもおかしい。代表監督といっても、別に名誉ではない、という事なのである。悲しいかな、WBCに対する意識はその程度のものではないか。“アメリカによるアメリカの為の大会”でしかない、と。
もちろん、WBCの歴史は浅い。これから、野球の世界一を決める、真の国際大会に育てていかねばならない。野球に関わる全ての人が目標とする、権威ある大会にしていくのであれば、それなりに運営等を見直す必要があると思う。やはり、主催は野球の国際組織であるべきだし、日程なども各国のリーグ戦を考慮して、慎重に決められるべきだろう。だいたい、日本もおかしい。WBCだオリンピックだ、と騒ぐ割には、そういう大会が行なわれる時には、リーグ戦を中断するとか、そういった配慮というか協力姿勢がないのがヘンだ。それだから、肝心の選手たちも、国際大会というものに対してモチベーションが上がらないのだ。
という状況下での落合発言、中日ファンの僕でも、100%支持する訳ではない。ただ、今まで述べたように、意外と安直に開催されているWBCというものについて、もう一度考え直してみるいい機会にはなるだろう。それにしても、落合博満という人、批判を恐れず、きちんと物を言う人だ。この点は評価されるべきと思う。言いたい事があっても、軋轢を恐れて発言しない人が多いからね、日本人には。