ご存知の人も多いと思うが、ビージーズのロビン・ギブが亡くなった。享年62歳。癌で闘病中だったらしい。最期に、家族がロビンを勇気づけようとベッドの周りで歌を歌ったそうだが、それも叶わず帰らぬ人となった。鐘を鳴らしてあげた方が救われたのかも、なんて思ったりもして。
ファンとしては、悲しいと同時に非常に残念だ。9年前にモーリスが亡くなり、事実上ビージーズは終わっていたのだが、バリー一人となった今では、一時的な再集結すら不可能となった。またひとつ、偉大な足跡を残したグループがその歴史に完全な終止符を打った訳だ。避けられない事ではあるが、これほど悲しい事はない。
僕がビージーズを知ったのは、『小さな恋のメロディ』である。特定の世代には、こういう人多いと思う。「メロディ・フェア」一度聴いただけで虜になった。素晴らしい曲だ。「イン・ザ・モーニング」もいいな。中学に入ったばかりの頃だったけど、この頃は映画音楽を主に聴いていたので、ビージーズの事も映画を通じてしか知らなかった。そして、徐々に洋楽を聴くようになってから、「ブロードウェイの夜」を聴いてすっかり打ちのめされ、それからビージーズを聴くようになった。1977年に出た2枚組ライブも、よく聴いてた。高校入試の直前に買った「愛はきらめきの中に」のドーナツ盤は、それこそ擦り切れるほど聴いた。歌詞も全て暗記してしまったくらい。今でも、だいたい覚えている。
70年代後半のビージーズは、皆さんご存知の通り、出す曲出す曲をヒットさせ、飛ぶ鳥落とす快進撃を続けた。正にヒットチャートを“席捲”していた。1975年から1979年にかけて、全米No.1が8曲、しかも「愛はきらめきの中に」から「ラブ・ユー・インサイド・アウト」まで6曲連続No.1というのは、当時としては凄まじいまでの勢いだった。90年代以降は、あまり珍しい事ではなくなったけど。
この時期のビージーズが凄かったのは、自分たちの曲だけでなく、他の人に提供した曲やプロデュース曲も、同時にヒットチャートを賑わしていた事である。特に1978年なんて、ビルボードのTOP10の半分くらいがビージーズ絡みだったような気がする。ちなみに、この年の年間チャートでは、TOP10内にビージーズ3曲、アンディ・ギブ2曲と半分を占めている。
オーストラリアで活動していたビージーズは、1967年イギリスに戻り「ニューヨーク炭鉱の悲劇」でデヒューし、しばらくは誰が言ったか“田園フォーク”路線で活動していた。この頃のビージーズは、アルバムを聴くと、シングル曲とそれ以外の曲の落差が大きく、これは作品の質の問題ではなくイメージの問題であって、アルバムトラックはメロディアスではあるが、サイケデリックでプログレッシブでもあり、全体として聴くと非常に摩訶不思議な世界である。でもというか、やっぱりというか、熱心なファンは、この頃に思い入れのある人が多いようで、以前ファンサイトでビージーズ・セッションのレポートを見た事があるのだが、演奏されたのはほとんどが初期、それもシングルにはなっていない曲ばかりだった。熱心なファンでなければ、一曲も知らないだろう。僕も知らない曲が多かった(笑)
この時期の曲では、「ラン・トゥー・ミー」や「マイ・ワールド」あたりが、個人的には好きだ。もちろん「メロディ・フェア」も。この「メロディ・フェア」が収録されている『オデッサ』というアルバムは、LPでは2枚組の大作で、オーケストラのインストも含めて、実にプログレッシブな世界が展開される。初期の代表作と言っていいのでは。やはり『小さな恋のメロディ』に使われた「ギブ・ユア・ベスト」「若葉のころ」も入ってます。
ビージーズは、1975年のアルバム『メイン・コース』で田園フォークからのイメチェンを図り、それは見事に成功する。僕も『メイン・コース』は名盤と思うし、これ以降のビージーズが好きな訳だけど、この『メイン・コース』の前に出た『ミスター・ナチュラル』というアルバムが、実は『メイン・コース』の前哨戦とも言える内容で、本当のイメチェンは実はここから始まっていたのだと言えなくもない。そういう意味では、あまり知られていない『ミスター・ナチュラル』、実は重要作なのだ。是非聴いてみて欲しい。
前述したように、70年代後半に快進撃を続けたビージーズは、1981年に『リビング・アイズ』を発表するが、満を持して出したはずのこのアルバムが予想に反して売れず、彼らは一転して過去のスター的扱いをされてしまう。『リビング・アイズ』いいアルバムなんだけど。個人的にはお薦め◎。でも、ビージーズは1987年「ユー・ウィン・アゲイン」という起死回生の名曲を発表し、チャートに返り咲くのである。この曲、各国でNo.1になりながら、アメリカだけでは売れなかったらしいが、その2年後「ONE」をTOP10ヒットにして、ビージーズはアメリカでも復活した。
なんかこう、ドラマチックなんだよね、ビージーズの歴史って。
ビージーズは、バリーとロビン、モーリス(双子)のギブ3兄弟によるグループだが、楽曲にしてもサウンドにしてもハーモニーにしても、全てが独特である。某音楽誌にも書いてあったが、似たようなアーティストを思いつかないのだ。フォロワーもいないし。一時期ディスコ路線だったけど、それですら他とは違っていた。彼らは唯一無比の存在だったのだ。ポップスの世界でも、ここまでの独自性というか孤高性を保っていたアーテイストは珍しいのではないか。その、誰にもマネ出来ない彼らの音楽は、いつの時代にも変わらぬ輝きを放っている。ビージーズは永遠になくなっても、彼らの残した素晴らしい音楽は、永遠に色褪せない。
今夜はせめて、この曲を聴いてロビン、モーリス、そしてビージーズを偲びたい。もしかすると、僕が一番好きなビージーズの曲は、この曲かもしれない。ロビンの訃報を聞いた時、ずっとこの曲が頭の中で鳴ってた。
安らかに。