またしてもショッキングなニュースである。歌手のしばたはつみが亡くなった。急性心筋梗塞だとか。自宅の風呂場で倒れていたそうな。享年57歳。早過ぎる。慎んでご冥福をお祈り致します。
報道では、「マイ・ラグジュアリー・ナイト」で知られる歌手のしばたはつみ、と紹介されているが、この曲がヒットしたのは1977年のことらしい。33年前である(!)。非常に残念だが、これ以降というか、80年代以降、しばたはつみを見る機会が少なくなった。実際の所、療養生活を送っていたりして、ここ数年歌手活動もしていなかったらしい。去年の暮れに乳癌が見つかったものの、手術が成功して、久々に歌手として復帰する準備を進めていた矢先の訃報だったようだ。さぞかし無念だったことだろう。
僕がしばたはつみを知ったのは、かなり前だ。それこそ小学生の頃かも。テレビの歌番組、といっても『夜のヒットスタジオ』みたいな番組ではなく、『サウンド・イン・S』のような、その時点の流行歌ではない、主に外国曲を実力派の歌手が歌う、という歌番組が70年代には結構たくさんあり、そういう番組にちょこっと登場して歌っているのを見たのが最初と思う。レコードデビュー前だったけど、子供心に上手い人だ、と感じた。しっとりとしたジャズボーカルも、ノリのいいR&Bも、正統派スタンダード・ポップスも、見事に歌いこなす人だった。その歌唱力は、正に日本人離れしていたと言っていい。最初のうちは、ちょこっと歌うだけだったけど、次第に出番が増え、前述の『サウンド・イン・S』あたりではレギュラー格となり、クラブの専属歌手みたいな感じで、毎回歌を披露する、という扱いを受けるようになった。子供でも上手いと感じたくらいだから、誰が聞いてもその実力は抜きん出ていたのだろう。僕なんて、日本人だけど、外人歌手みたいな捉え方をしていた。後年レコードデビューした時、あまりにもフツーの歌謡曲を歌っていたので、拍子抜けした記憶がある(笑)
ま、陳腐な表現で申し訳ないが、しばたはつみは“本格派”の歌手だったのである。今回の訃報に接して初めて知ったのだが、彼女はやはり天才少女だったようで、9歳の頃から米軍キャンプで歌っていたらしい。11歳でスマイリー小原の楽団の専属歌手となり、10代後半にはアメリカで修行していたとか。テレビで見るようになった時は20代前半だったようなので、既に相当のキャリアを積んでいた訳だ。
今でも、しばたはつみのように、ヒット曲はないけど、実力派として認められている人はいるが、活動の場はほとんどライブハウスだろう。テレビで歌う、というのは稀だろうし、またそういう歌手が出演出来る番組もない。そんな事情もあり、ほとんどの歌手は広く一般に知られる事もなく終わっていくのだろうけど、そういう意味では、しばたはつみのような歌手をお茶の間で見れる時代を経験出来たのは幸運だったと思う。少なくとも、アイドル歌手とは違う実力派歌手が世間には存在するのだ、という事実をガキに知らしめたのだ。
という訳で、僕にとっては、その実力と共に、70年代のテレビ事情やら何やらもまとめて思い起こさせる歌手だったのである。57歳なんて早過ぎる。まだ歌っていて欲しかった。惜しまれてならない。
所で、これまた今回初めて知ったのだが、松本伊代は、しばたはつみのはとこだそうな(関係ない?)