Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

土筆(99)

2018-06-12 15:03:49 | 日記

 「そんな物かなぁ。」両親が自分達の居所にしているお店に帰った後、座敷に1人残った彼はテーブルの前で湯飲み茶わんを片手に呟きました。

   彼にしてみると、「…ちゃん」は初めての子と言う事で、文字通りの愛娘でした。彼なりに念入りに子育てして来たつもりでしたが、はてさて自分の子育ては間違っていたのだろうか?両親とはこの座敷で一頻り子育て談義した後でした。彼の父さえも息子には味方してくれず、最期には「娘は母に預けなさい。」と言う始末です。そんな舅姑に妻は機嫌良く愛想を振りまき、子はお土産を頬張りにこやかにはしゃぐと、2人は大通り迄賑やかに彼等の帰りを送って出たのでした。家には彼1人取り残された形になりました。

 シーンと静まり返った家の中、座敷の中央に1人座した彼は、先刻母に言われた忠告をしみじみと熟慮してみるのでした。「女は女同士」か。言われてみればそうかもしれない。この時、静寂の中で彼は自分の持った子が男の子では無い事、息子の無い男親の寂しさという物を噛みしめていました。頭の中で3人家族の母娘の顔を寄せてみると、彼は1人孤独でした。そこで彼はお茶を一口啜ると、気を取り直したように呟きました。

「反対に『男は男同士』と言いたいものだ。」

そう呟くと、彼は気持ちが緩みふっと微笑みました。彼は見るとも無しに座敷に吊られた掛け軸を見詰めていました。掛け軸には剣を片手に掲げた如何にも勇壮な鍾馗様の姿が描かれていました。

  『 逞しくて腕白で、勝気があり聡明な男の子、そんな息子が欲しかったなぁ。』彼はハーッと溜息を吐きました。男らしい男の子、国造りで活躍した勇敢で理知的な日本男子、「日本武尊」、それが彼の理想の息子でした。「それが家は女だったからなぁ…。」と、彼は頭を抱えると長女が生まれた時の事を思い出していました。


土筆(98)

2018-06-12 09:14:05 | 日記

 「お前、いい加減にして置きなさい。」

思いがけず、親子2人の話していた部屋の後ろ、座敷から父方の祖母が現れて父に声を掛けました。

「あれ、お祖母ちゃん、いたの?」

急に眼に入って来た祖母の顔に、孫が問いかけると祖母は笑顔になり、にこやかに孫娘の顔を見てそうだと答えます。

「さっき来たんだよ、伯父さんの家に先に寄ってから、その帰りにここに寄ったんだよ。」

と祖母は孫娘に説明しました。父の両親に当たる祖父母は、商いをしている家でそのまま寝泊まりしていましたから、各々の息子家族とは別居して暮らしていました。

「ほら、お土産」

祖母は土産のキャラメルの大箱を、自分の顔の高さまで持ち上げると横に振って見せました。そしてわーいと嬉しそうに飛んできた孫娘に、ほいと手渡ししました。孫は大喜びです。お祖母ちゃんありがとうと、早速箱を開けようとしました。

「まぁまぁ、お母さんに見せてからにしなさい。いい子だから、その後開けようね。」と祖母が孫を制すると、孫は、「はぁーい。」と素直に返事をして一目散、台所に居るらしい母の元へと駆け去って行きました。

 「さぁ、これで人払いは出来た、と。」祖母は笑顔を引っ込めると息子であり、まだまだ新米パパの彼を真顔で諭し始めました。

「お前、娘の面倒を自分で看るのはもう止めたらどうだい。」

女の子の世話は母親に任せたらどう、女同士だからね、それが良いよ。それに男のお前が何時までも女の子のあの子の面倒は見られないだろう。そう言うと、今聞いた父娘の会話についても、「私は呆れて物が言えないよ。」と言うのでした。

「幼い女の子に今聞いたような世辞追従など言われてごらん、私だったら、『このこまっしゃくれ』としか思わないよ、その子のほっぺの一つも抓りたくなるというものだ。可愛いどころか小憎らしくなるよ。」「お前が教えたような調子でいたら、あの子今に人に好かれるどころか、反対に酷い目に合うよ、可哀そうに。」と忠告するのでした。