『俺、本とにこいつとは反りが合わんなぁ…。』
と、彼は心中思いましたが、表面何食わぬ顔をして笑って見せました。
「いや、何時もお前の事も考えているぞ、が、何しろこっちの方が幼いもんだからな、つい年下の方を構ってしまうんだよ。」
と、次男の甥を見やりながら、彼はそんな事をややしどろもどろに長男の甥に言うと、「いやいや本とに立派な中学生だ、おっちゃん、見惚れるぞ。お前女にモテモテだろう。」と、更ににこやかに彼をおだてるのでした。
「姉さん、あなたは立派だよ、こんな立派な息子を2人ももうけたんだからなぁ。」
彼は居間の座卓の前、何時もの場所に陣取ると、珍しく不愛想にお茶を出す兄嫁に気兼ねして、何時も以上に愛想よく声を掛けました。そしてにこやに義弟らしく愛嬌を振りまくのでした。
一方、中学生の甥の方は、自分の母親の様子にも常とは違う雰囲気を感じていました。それで母の顔色をじーっと窺っていました。そこでそれと気づいた彼女は長男に目配せし、意味あり気にほくそ笑むと、目で廊下を指しました。彼女は長男に廊下へ出る様にと促したのでした。
母が廊下に立って出たので、彼もその後を追い立って廊下に出ようとしました。その時です、「兄ちゃん、俺今年の大将に決まったんだよ。」目を輝かせた弟が徐に兄に報告しました。「えっ!」と声に出して兄は非常に驚きました。「どうしてお前が、」そう言って彼は絶句すると、直ぐには事実が信じられない様子です。
一瞬呆然とした兄でしたが、その後直ぐににっこり笑うと、「冗談だろう。おっちゃん、こいつと2人して俺を担ぐ気なんだろう。」と、彼は余所行き言葉から普段の言葉遣いに戻って、『その手はくわなの焼きハマグリ』さ、と言うと、叔父、弟の2人に、さも愉快そうに笑って見せました。が、内心は酷く動揺していました。握った拳がぶるぶると震えるのが自分でもはっきり分かるのでした。