彼女は窓下でしゃがみ込んでいる童女の丸い頭を見下ろしながら、絵を描く度にちょこちょこと動く、春の日差しを受け艶やかにその光に染まる、羨ましい程に初々しい髪の毛を見ると『まるで餌を漁る子雀のまあるい頭の様だ。』と思います。そう思うとこの子も可愛い物なのに…。彼女はその子に繋がる昨日の母親の顔を思い浮かべると、『雀でさえ、親は子雀の面倒を見て傍にいる物を。生きる為に彼是教えている物を。自然の摂理でそうあるべき物なのに、然るべきなのに、其れなのに、あの人は…』と、胸中絶句します。『教えるどころか、自分の子供はそっちのけで、話す言葉といえば自分の事ばかり。』
「何であの人の親でも無いこの私が、あの人にあれこれと物の道理を教えなければいけないんだか。」
と、昨晩の腹立たしさが甦って来ます。かーっとして来ると、彼女は怒りの為に身が震え、上気して顔が赤くなってしまうのでした。
「おばさん、ごめんなさい。」
不意に下から可愛い声が掛かりました。昨晩の光景を眼前に甦らせて怒りに震えていた彼女は、ハッと我に返りました。
「あらっ、」
と、自分では心中で呟いていたつもりの言葉が、もしかすると我知らずの内に外に漏れ出ていたのかしらと、「私も修行が足りないわね。」と反省したように呟くと、彼女は今度は恥ずかしさでぽっと頬を赤らめるのでした。
「おばさん可愛い、女の子みたい。」
この時、つい見たまま、感じたままを言葉にした私でしたが、この言葉が婦人の癪に障りました。
「女の子で悪かったですね。」
彼女はそう言うと、「どこかで聞いたのかい?」「あなたも他の悪童達と同じね!」等と、急にぷりぷりすると、再び2人には通じ合わない話が始まろうとするのでした。