何時も自分には従順な筈の妹が、この様に驚くように強靭な態度に出たのです、兄は虚を衝かれて内心狼狽えました。そんな彼の様子に勇気を得たのか、妹は遂に堰を切ったように喋り出しました。
「私悪く無いわ、この機会に私や…ちゃん、それにお母さんや叔母さんへの叔父さんの態度を考えてもらいたいの。」
彼女は兄に言い張るのでした。お兄ちゃんだって本当はそうよ、叔父さんと全然変わらない態度なんだから。…。話し続け、今までの思いの丈を吐き出す彼女の声は興奮の余り涙声に変わりました。
チェッ、兄は舌打ちしました。そして叔父に向き直ると、
「妹がこんな調子なので、叔父さん今日のところはもう引き取って貰えませんか。妹には後で僕からよく言って聞かせて置きますから。」
彼は訳知り顔で、恵比寿様の様に円満な笑顔を浮かべると叔父に向かって言いました。
この時、事の事情がよく分からないのは叔父だけだったのかもしれません。
『義姉さんや家のに、俺が一体どんな悪い態度をとったと言いたいんだか。』
彼はそう考えあぐねていました。暴言とも取れる姪の言葉にあって彼も何だか気分を害して来ました。
彼の考えでは、何方かというと自分は婦女子に対して丁寧親切な方であり、彼女達のする事は何でも大抵自由に認め、好きなようにさせてやっている筈なのでした。あれダメこれダメと言う、拘束力の強い封建的な古いタイプの父や、父に似ているこの家の主である兄に比べれば、自分は余程自由な思想の持ち主なのでした。彼は婦女子に対して理解があり、包容力のある柔らかい現代的な人間だと自負していたのですから。