鈴舞さんが日舞の次に出会った踊りは、バレエでした。その前に、学校行事で民謡などの踊りを覚えたりしましたが、子供向けに簡略化されたもので本格的な踊りではありませんでした。が、鈴舞さんにとっては日本音楽独特の、哀調を帯びた陰音階、陽音階の曲と初歩的な出会いがありました。
さて、西洋舞踏というべきバレエに、鈴舞さんが何処で出会ったかというとそれは従姉の家でした。ある日彼女が親戚の家へ遊びに行くと、彼女の従姉は1人で、今しもバレエの練習の真っ最中という場面でした。鈴舞さんの従姉は、彼女の家の廊下でコツコツと、トウシューズを履いて音高くステップの練習中だったのです。
コツコツコツコツ…、何の音だろう?と、鈴舞さんが音の聞こえて来る従姉の家の廊下を覗くと、彼女の従姉で、2つほど歳上のお姉さんになる桃子さんが、ちゃんとレオタードという練習用のコスチュームを身に着けて、顔付も涼やかに取り澄ますと、真面目にステップを踏んでいる所でした。そしてクルクルと回転してポーズ。等しているのでした。
鈴舞さんは目を丸くして驚きました。この時、もう鈴舞さんにはバレエという踊りについての知識が有り、テレビでも見た事が有りました。が、実際に彼女が目の当たりにするのはこれが初めての事でした。しかも、自分の最も身近な従姉が如何にも慣れた感じで堂に入った様に踊っているのです。
『知らない間に…、こんな事になっていたなんて…、』と、彼女は自分の知らない間に洋風の洒落た踊りを習っていた従姉に、全く信じられないものを見たという思いで絶句するのでした。呆気にとられた鈴舞さんは、暫く従姉を見詰めたまま身動き出来ないでいました。その後、彼女は漸く、従姉のバレエの練習場になっている廊下へと足を踏み出しました。