Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

マルのじれんま 9

2020-04-07 11:29:02 | 日記

 ドクター・マルの弟、エン親子は、マルが前以て連絡して置いたこの区域のパーラーに来ていました。親子は各々に注文した地球のデザート、フルーツ・サンデーとパフェを物珍し気に食べていました。親子は特に果物が気に入った様子です。店のスタッフに、林檎やメロン、バナナ等の果物の名前を聞き、それらを故郷の星で購入する方法などを質問していました。また、アイスクリームのレシピを聞き出し、親子揃って興味津々の様子でその製造法に耳を傾けていました。エンは小まめにメモを取るなどしています。

 「やあ、エン。」

店内に入ったマルは弟のエンの姿を目に留めると、彼等の傍に寄る前にそちらの方向におっかなびっくり声を掛けました。そしてそうっと彼の傍らを窺って見たりするのでした。

「やあ、兄さん。久し振りだね。」

漸く兄に会えて、ここ迄長旅して来たエンもさぞや嬉しかったのでしょう、こちらも遠慮がちな声でしたが、その表情は喜々としてとても笑顔でした。

 マルは弟の傍に着くと、直ぐに自分の横にいるシルの役職と名を告げて、彼に彼女を紹介しました。

「姉さんかと思ったよ。」

エンは少々笑顔を引っ込めると言いました。

「それで、兄さん義姉さんは?、2人仲良くやっているのかい?。」

「義姉さんは変わりないだろうね。僕は義姉さん御自慢のデザート、ポリポリがまた食べたいなぁ。」

思い出すように一瞬感慨深い顔をしてから、再び満面の笑顔でそんな事を兄に言う弟でした。

 このマルの弟の言葉に、傍らにいたシルは少なからず驚きました。まさかマルの弟のエンが、マルが今は独身の身の上だという事を知っていないとは、彼女は全く思わなかったからです。それで彼女は顔は動かさずに目だけでマルの様子をちろりと窺いました。

 今迄の弟の言葉や、そんな彼女の雰囲気にマルは苦笑いを浮かべました。

「いやぁ、まぁ、彼女の話はその内に。」

そう言って言葉を濁すと、

「それより、エン、姪に私を紹介してくれないのかい。」

こう言って、都合が悪くなったマルは本来の話題に入る形で話を変えました。

 彼は故郷の家族に自分が妻と離別した事を知らせて無いのでした。そうなのだとシルは感じ入りました。マルの心の内には悲哀と羞恥心が渦巻き、加えて焦燥感が押し寄せて波立っていました。家族に限らず、ドクター・マルは自分の過去の私生活を人には知られたくなかった様子です。プライドが高く、思いやりのあるマルは、他人や身内に余計な詮索や心配をさせたく無かったのでしょう。


マルのじれんま 8

2020-04-07 11:00:55 | 日記

 ドクター・マルは溜息を吐きながら、シルとの約束の時間、約束の場所へと向かっていました。

 「お会いになってみるとよいですよ。」

シルはマルにそう勧めたのでした。相手は女の子といってもドクターの身内なのだし、ドクターとの共通点も多く見い出せるかもしれない。そう彼女は言うのでした。

「案外ドクターと姪御さんは仲良くなれるかもしれないですよ。」

とこう言うと、彼女はマルが彼の弟やその子供と共に面会する事を彼に推奨するのでした。

「これを機に、ドクターの女性嫌いが治るかもしれません。」

「そう考えるとこれはドクターにとってまたと無い好機です。」

「どうしても心配なら、私が付き添いましょうか?。」

とまで、こう迄彼女に言われては、到底マルも親戚との面会を断り切れなかったのでした。そして彼は、面目無くもシルに面会の同伴をお願いする事にしたのでした。

「やあ、お待たせ。」

マルはシルの姿を認めると、直ぐに彼女に声を掛けました。シルは何時もの様に約束地点には既に来ていたのです。

 ここは、面会者などの一時居住区に通じるシャフトの前です。彼女は扉の前に佇んでいました。

「まぁ、ドクター、緊張気味ですね。」

ドクターの変わらぬ渋い顔を見て、シルは彼にこう返事をしました。

「ご親戚同士なんですから、ドクターの方もご気楽にどうぞ。」

弟さんなどは懐かしいでしょう?。もうどのくらいお会いになっておられないんですか。そうマルに笑顔で話し掛けながら、シルは彼と2人で扉の開いたシャフトに乗り込みました。

 「弟さんとは兄弟仲がよろしかったんでしょう。」

シルはマルの胸の内から、彼等兄弟に付いて何の問題も読み取れなかった事からこう言ってみました。するとマルもそうだねと、やはり彼女の推測通り何思う所無く答えるのでした。

「故郷にいた頃は、2人でよく悪戯して歩いたものさ。」

当時を懐かしむように、遠い目をしたマルは穏やかな笑顔になりました。