ドクター・マルの弟、エン親子は、マルが前以て連絡して置いたこの区域のパーラーに来ていました。親子は各々に注文した地球のデザート、フルーツ・サンデーとパフェを物珍し気に食べていました。親子は特に果物が気に入った様子です。店のスタッフに、林檎やメロン、バナナ等の果物の名前を聞き、それらを故郷の星で購入する方法などを質問していました。また、アイスクリームのレシピを聞き出し、親子揃って興味津々の様子でその製造法に耳を傾けていました。エンは小まめにメモを取るなどしています。
「やあ、エン。」
店内に入ったマルは弟のエンの姿を目に留めると、彼等の傍に寄る前にそちらの方向におっかなびっくり声を掛けました。そしてそうっと彼の傍らを窺って見たりするのでした。
「やあ、兄さん。久し振りだね。」
漸く兄に会えて、ここ迄長旅して来たエンもさぞや嬉しかったのでしょう、こちらも遠慮がちな声でしたが、その表情は喜々としてとても笑顔でした。
マルは弟の傍に着くと、直ぐに自分の横にいるシルの役職と名を告げて、彼に彼女を紹介しました。
「姉さんかと思ったよ。」
エンは少々笑顔を引っ込めると言いました。
「それで、兄さん義姉さんは?、2人仲良くやっているのかい?。」
「義姉さんは変わりないだろうね。僕は義姉さん御自慢のデザート、ポリポリがまた食べたいなぁ。」
思い出すように一瞬感慨深い顔をしてから、再び満面の笑顔でそんな事を兄に言う弟でした。
このマルの弟の言葉に、傍らにいたシルは少なからず驚きました。まさかマルの弟のエンが、マルが今は独身の身の上だという事を知っていないとは、彼女は全く思わなかったからです。それで彼女は顔は動かさずに目だけでマルの様子をちろりと窺いました。
今迄の弟の言葉や、そんな彼女の雰囲気にマルは苦笑いを浮かべました。
「いやぁ、まぁ、彼女の話はその内に。」
そう言って言葉を濁すと、
「それより、エン、姪に私を紹介してくれないのかい。」
こう言って、都合が悪くなったマルは本来の話題に入る形で話を変えました。
彼は故郷の家族に自分が妻と離別した事を知らせて無いのでした。そうなのだとシルは感じ入りました。マルの心の内には悲哀と羞恥心が渦巻き、加えて焦燥感が押し寄せて波立っていました。家族に限らず、ドクター・マルは自分の過去の私生活を人には知られたくなかった様子です。プライドが高く、思いやりのあるマルは、他人や身内に余計な詮索や心配をさせたく無かったのでしょう。