ミルが帰艦した翌朝。ドクター・マルは医療室へやって来たバツ艦長から話掛けられました。
「弟さんが来ているんだってね。」
事情は副長のチルから聞いたよ。昨日君はミルに相談したそうだね。チルがミルから聞いたと言って私の所へ来たんだ。そう悩む事も無い話だと思うがね。と、バツ艦長は穏やかな笑顔で労うようにドクターの肩をポンと軽く叩きました。
「そうでしょうか。」
マルも艦長の手前でしょう、一応笑顔でこう答えました。
しかし、やはり元気の無いドクターの様子です。バツはふうむとドクターの冴えない顔つきを窺うと、
「それでは、新しく着任したシル君に相談してみてはどうだね。」
と助言しました。シルは女性の感応者であり、宇宙船の乗組員全員の相談員でした。前任が退職した後、この艦に赴任して来た相談員です。彼女はこちらに来て数カ月になりますが、マル自身はそう話す機会が無く、問題が有るクルーについて、彼女から何件かデータ処理された報告を受ける程度でした。シルのデータを見る限り、彼女はなかなか優秀な隊員だなと、マル自身も判断していました。
しかし、マルの方はそれも気乗りしない事だと内心思うのでした。というのも、マルはシルに限らず異性という相手が苦手でした。そこで艦長にあれこれと口実を考えては言い訳し、彼は相談員シルに対して心理的援助を受ける事を拒もうとしました。
「まぁ、そう硬く考えずに、君も何でも気楽に彼女に話してごらん。」
既にシルの精神的ケアを何度か受けた事のある艦長は、マルを励ますようにこう言うと、彼に対して優しい笑顔を浮かべました。
「シルには私の方から言っておくから。」
とマルに言い残すと、バツはさっさと医療室を出て行ってしまいました。