「何を言い出すんだ。」
私はモテてなどいないと、ドクター・マルは怒った様子で弟の言葉を否定しました。
「モテていたのは、お前の方だろう。」
彼は返ってあれやこれやと弟の昔の話を口にすると、不満げに言い返しました。
これには弟のエンも負けてはいませんでした。そこで、積年の恨みを晴らすかのように、それまで仲の良かった兄弟2人は言い争いを始めました。
そんな2人の傍らで、呆気に取られたシルと、目を丸くしたピ―、マーの姉妹の3人は言葉も無く大人の男性2人の言い争いを見詰めていました。が、幼い姉妹が驚いている様子に気付いたシルは、まあまぁと、マル達兄弟の喧嘩の仲裁に入りました。
「お子さん達が見ていますよ。」
2人共落ち着いてくださいね。そう彼女に諭されて、感情的になっていた2人はお互いに口を閉じて、一旦はそれぞれの矛先を収めました。
しかし、エンの方は内心収まり切らない物があったのでしょう、兄の先に口火を切りました。
「兄さん、この子達の母親は、元はと言えば兄さんの奥さんになる予定の人だったんだからね。」
それを僕に押し付けて、兄さんが星を出てしまう物だから、僕が後を引き受けることになったんだ。
「だから、この子達だって本を辿れば兄さんの子供になるんだ。」
と、彼は筋の通ったような訳の分らない事を言い出しました。
なるほど、と、シルも事情を察すると、彼等兄弟の心を読む事も無く椅子からすいっと立ち上がりました。
「私はお邪魔になりそうなので。」
込み入ったお話になるようですから、失礼しますと、彼女はマン・ソウダネ一族から離れて退出して仕舞いました。