すると、シルはマルに声を掛けました。
「お互いに、似ていない双子なんですね。」
それに対して、いや、とマルが彼女の言葉を否定すると答えました。
「見分けがつくように、常にどちらか一方が身なりを変える様にしているんだ。」
今日は船の皆が私の方を見慣れているからと、エンの方で濃い目に扮してくれたんだ。元の容姿は2人同じなんだよと、マルはシルに説明しました。
「まぁ!。」
シルはびっくりして声を上げました。
「ではお2人は、全く見分けが付かないんですか?。」
と、そこまでは感応者の彼女でも、なかなか読み取れなかった真実なのでした。そこでシルがエンの苦労をねぎらうと、彼は、故郷の星では皆この容姿だから自分は常に外ではこの形でいる、慣れているから一向に構わない。と、別段彼女の言葉を気に留めること無く答えるのでした。
「扮装は何時もなんですか。」
エンの言葉でしたが、シルは表面の言葉だけでは無い、彼の内面の大きな気苦労を読み取るのでした。兄は自由気ままに気楽に宇宙に出て行ったのに、弟の彼は故郷の星に残り、両親や家族を看る責任を負っているのでした。地に足が付いた様な彼の性格が読み取れた彼女は、思わず視線をテーブルに落とすと深い溜息を吐きました。『一家の主は何処も大変だわ。』
そんなシルの様子に、エンはにこにこして彼女を見詰めました。彼にはマルが、面会の場に夫婦連れで来なかった事が不思議でした。彼は出会ってから今迄、時折不審そうな視線を兄のマルと、兄の同僚だという女性、シルに交互に投げかけていました。が、事ここに来て、彼は兄マルの方の事情に薄々勘付いたのでした。これは如何やらと、この様子では兄さんは義姉さんと別れたらしいと察しました。
だとしたら、『何故兄さんは言ってくれなかったんだろう?。』。そんな事をエンは寂しく考えていました。そこでそれを読み取ったシルは、気を回してマルの肘を突きました。
「ドクター、弟さんにお話される事がお有りじゃないですか。」
と、マルに打ち明け話を促すのでした。
マルはちょっと驚いた顔をして彼女を見やりました。そうして、彼女が無言の儘彼の顔を見て、『正直に、正直に』と、パクパクと口を動かすのを眺めていましたが、ああと気が付くと、いやぁ、ははははは、と、照れ笑いをしてから、
「実はね、エン、お前に話してない事が有ったんだ。」
と、自分の結婚が破綻した事を初めてぽつぽつ弟に打ち明けるのでした。
エンは兄の話を聞いて、やはりそうだったのかと兄に気の毒そうな視線を送りました。
「兄さん夫婦の事だから、私には何も言えないけどね。」
彼は兄嫁がとても美しい人だったというと、彼女は料理も上手かったのに、残念だったね兄さんと、無念ながらに慰めの言葉を添えるのでした。