感応者のシルのことです、彼女はドクターの身の上に付いてある程度の真実を読み取っていました。それは、この船の他のクルーが、マルの表向きの言葉からだけ受け取っている様な、独身貴族を只々謳歌してきただけの人生を彼が送って来たのでは無いという事でした。それを彼女は既にマルの内面から読み取っていたのですが、まさか彼が他人だけでは無く、自分の身内に迄も彼自身の生活を偽っているのだという事は、全く気付いていませんでした。
この時初めてシルはその事を知りました、彼女はマルが現在迄かなり複雑な人生を歩んで来たのだと知ると、彼が相当に精神的な抑うつ状態にいる事を理解するのでした。
『これは、精神的なケアが必要になるかもしれない。』
彼女はマルに対して、本格的に精神面でのケアに付いて取り掛かろうかと考え始めました。
マルとシル、マルの弟親子は、パーラーで思い思いのオーダー品を取りながら両者寛ぎ始めました。マル兄弟に昔話の花が咲き始める頃になると、マルも優し気な眼差しを彼の姪に注ぎ始めました。姪の方も、彼女の父親のエンがにこやかに話す顔を見上げると、時折父の話相手の伯父の顔に、親しみのある笑顔を向けるのでした。
マルに付き添っているシルがこの場を眺めてみると、マルとエンは全くといってよい程似ていません。例えば外見をだけを取って言うと、兄弟2人は明暗の対象物を見ている様な外見です。マルが昼ならエンは夜といった感じです。エンは暗い濃紺の髪と濃い焦げ茶色の瞳を持っていました。流石に肌の色は彼等の星人特有、兄弟共に白い色でしたが、やはりマルの方がかなり色白に感じます。マルが純白ならエンはアイボリーの白さという感じです。
彼等の話している話題はというと、やはり外見同様に各々似通っていませんでした。彼女が覗いて見る内面の性格なども、2人は相当違うようでした。文化的な趣味や教養が好みのマルに対して、エンは生活に密着した衣食住の話題、自分の仕事の話題を好んで取り上げていました。それでも両者、円滑に話が進んでいるのは、やはり兄弟だからでしょう。シルはそんな男性2人の会話を微笑ましく眺めていました。