祖母の手に有る物がお菓子と踏んだ私は興味津々、どんな美味しいお菓子なのだろうかと推量を巡らせた。何時も祖母から美味しいお菓子だよと、お前に上げようねといって手渡されるお菓子は和菓子が多かった。饅頭の時もあり、練り餡の餡切菓子の時もあった。つい先日も、これは父からだったが、チョコレート饅頭なる物を手渡されて食した私は痛くこの菓子が気に入った。
『チョコレート饅頭だろうか。』
ポンと脳裏に浮かんだその茶色の丸い菓子、上部がチョコレートコーティングされた饅頭を思い浮かべると、私は目を輝かせて『だったらとてもよいな。』と、期待するのだった。
先日は父から初めて貰ったが、今度は祖母がその美味しい饅頭を私に手渡そうとしているのかもしれない。彼女は私を歓喜させようするあまり、その菓子を出し惜しみをして隠しているのだろうか。何も知らない私だと思い、彼女はそ知らぬ振りで私をじらした後、漸く手渡した菓子に驚いて私が歓喜する姿を想像しているのだろうか。その時を想像する事で、つい笑ってしまいそうになり、彼女はそれを堪える為この様な逡巡とした表情を浮かべているのだろうか。
きっとそうだ!、私は思った。私は首を振ってにこにこと満面の笑みを浮かべると祖母の顔を見上げた。そうして笑顔の儘さもしたり顔で祖母の前にぱっと開いた私の手を差し出した。すると彼女は恥じらいの中にきょとんとした感じの表情を浮かべた。
ややあって後、祖母は生真面目そうな表情になると、何だいと私に言った。
「この手は何だい。」
彼女のこの第2声には、何となく私が彼女に菓子をおねだりしていると察している様な、彼女の面白そうなニュアンスがこもっていた。
そんな祖母の内なる気配に、『もう、お祖母ちゃんたら、分かっているくせに。』、と私は思った。そして、祖母はあくまでもこの場をはぐらかせて、孫の私にサライズプレゼントとして隠している菓子を使いたいのだな、と私は推量した。