祖母の表情には相変わらず羞恥心の色が浮かんでいた。私はそれを再度認めると、やはりお祖母ちゃんはお菓子を隠している、と確信を深めた。
ここで私は、祖母が菓子を出しやすい様にと自分も大人に真似て彼女を揶揄してみる事にした。私は祖母の前に出した手の指を催促する様に動かした。そして彼女に言った。
「その後ろに隠しているものは私が使いましょう。」
この場合の使うは食する事だが、私はふざけてこう言ったのだ。
食べましょうでは余りにもあからさまだった。極めて面白味が無い。そう考えた私は、祖母が隠し持っているのは道具だとこちらが勘違いしている様に恍けてみせた。だが私の文言中に、如何にもわざとらしく真実は違う物を持っているのをちゃんと見抜いているんだよという感じを匂わせていおいた。そうして、知りながら敢えてこう言っているんだよというニュアンスを暗に込めるという事をしたのだ。
すると、そんな私に対して祖母は妙な顔付をした。眉間に皺を寄せて思案する気配が見て取れた。私は何となく菓子を貰うという雲行きが怪しくなった気配を感じた。そこで、お菓子を貰うためにはもう一押しと考えた私は考えを巡らせて、にこやかな笑顔を浮かべると、声音も高らかに
「お祖母ちゃんが使う事も無い、私がお祖母ちゃんの代わりに自分の口に入れましょう。」
と、漫才芸人のような口調、身振り手振りでこう披露した。
祖母はポカンとした丸い目をして半開きの口になったが、やはり何やら解せない様子でいた。彼女は目を瞬きながら、遂には寂しそうに微笑んだ。
「お前が、お祖母ちゃんの代わりに、これを使うと言うのかい。」
やや小さな声でほっそりと言うと、祖母は自身の手に有る物を確かめる様に少々見返った。が、私にはやはりその物が祖母の体にすっかり隠れていて見通す事が出来なかった。
この時の私はちらりとでもお菓子の正体が知りたかったが、背伸びして見ても祖母の背を窺う事は叶わなかった。私と祖母の距離がやや有り過ぎていて見通す事が出来なかったのだ。