「物事ゆっくり考え直せば、ほら分かって来ただろう。」という父から教わった言葉通りに、私は落ち着いて、落ち着いてと、繰り返し心の中で呟きます。そうして気持ちを落ち着けると、今までの事をもう1度思い返してみます。
『分からない事は何でも分かる所まで戻って考えてみるのだ。』父の教え通りに、そうやって何度か繰り返し分かるところから分からない所へ差し掛かった転換点、その場面での辺りの人や物事、その言動などを、事情が理解できるまで繰り返し繰り返し思い返してみます。そうやって記憶を反芻しながら私はどのくらいそこで屈んで思い出しては考え込んでいたのでしょうか。
「まだいたの。」
というお姉さんの声にハッとして振り返りました。そこには先程の場所と同じような場所にお姉さんが1人で立っていました。「もう此処にはいないと思っていたのに、こんな所によく今迄…」そう言って、笑顔だった彼女は一瞬私の後ろに誰かを見たようでギョッとして言葉を飲み込みました。私はそんな彼女の様子に直ぐに自分の後ろを振り返りましたが、後ろはおろか自分の周りには誰1人いないのでした。
彼女は、「もしかすると本当に1人でいたの?こんな所に?」と如何にもびっくりしたように目を丸くしたのでした。私にすると彼女が姿を消してから、今声をかけて来た時間はほんの一瞬の間だと思っていました。こんなに彼女の驚く様子がまたまた不思議でした。それでこの日の私の不思議がまた1つ増した訳ですが、今回のこの不思議は彼女自身の出来事で、どうやら私の方は理解しなくてもよい不思議のようだと感じました。この日の私の不思議はもう飽和状態だったと言えるでしょう。私にとってこれ以上の不思議な出来事を増やしたくなかったというのが本音かもしれません。