Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華3 93

2020-12-15 16:58:07 | 日記
 「智ちゃん、」

急に従兄弟が話しかけて来る。はっとして、私は従兄弟の顔を見た。と、またもや従兄弟はぷっと吹き出し口に手を当てた。相変わらずくふふふふと、笑いを堪えた笑いを始めた。

 『何だ、またか。』と、私は従兄弟に対して、益々いい加減な子なのだと感じて来た。そこで一旦従兄弟に向けた私の注意を、再び祖父や父へと戻した。そうしながらも、私は意識的にちろっと従兄弟に対して批判的な視線を向けてみた。が、従兄弟の方はそんな私の態度にも一向に気付いた気配が無い。それ位、従兄弟の己が愉快感に囚われている様子は相当な物だった。身を屈める様にして腹を抱え、目まで開けられない様子で閉じてしまっている。従兄弟は笑い声を出す事も出来無いらしく、只静かに口を開けるだけで、やはりその動作は確かに笑っていた。

 さて、座敷の方だ。「だがなぁ、この字でもいい様な雰囲気だったんだよ。」祖父は何やら父に弁解し、反論している様子だ。あの場ではそんな雰囲気だったんだよ。医師も看護婦も。祖父がそう言うと、「医師って医者か?」と、父は尋ねた。なら尚更この字だろう。と父が言うと、祖父の方は、お前あの場にいなかったから、雰囲気が分からないんだよ。と、2人の話はまだまだ続く様子だった。

 「智ちゃん、智ちゃんだよね。」

如何や従兄弟の方は落ち着いた気配だ。私は従兄弟の方へ注意を戻した。従兄弟は堪えながらの大笑いで涙でも出たのだろう、赤い目をして私の前に立った。「そうだよ」。私は座敷の方へ気持ちを残しながら従兄弟に返事をした。

 従兄弟が黙っているので、私はここで自分の注意を全面的に従兄弟へ戻し、その目を見詰めると、それで、それが如何かしたのかと尋ねた。

 「智ちゃん、もう仏様だよね。」

不思議な言葉だ。従兄弟は何を言い出すのだと、この言葉にさっぱり意味を理解出来無いでいる私には、何の考えも浮かんでは来なかった。難しい顔をするしか無い私に、続けて従兄弟が言った。

「それとも、迷ってるの?。」

お祖父ちゃんの言う様に。そう言うと、従兄弟は私の父も未だそこまでは成り切っていないだろう、途中じゃ無いかと言っていたと言う。そうして、

「途中というと、あれ?。」

あれって、と、私はそれは何かと従兄弟に尋ねた。従兄弟の方は、何やらここで言い淀んでいた。何方を言おうかと言う。何方?、益々私には訳が分からない。あまつさえ、ここで従兄弟は私に、何方の言い方が良いかと聞いて来るのだ。

「智ちゃんの言ってもらいたい方で言うよ。」

私は何方でも構わないんだ。と、こう従兄弟に言われても、私には何の考えも浮かばんで来ない。従兄弟への返答に窮してしまうのは道理だった。困った私が黙して語らず、座敷の声にも無論、自分の気が回らないのはやはり道理だった。私達の間の静寂が、従兄弟の耳の方に働いた様子となった。ここで先程までの私の立場と従兄弟の立場が入れ替わった。私は自分の考えに集中し、従兄弟の注意は座敷の中へと向かった。

 従兄弟に対して何と言えば良いのか。言葉に窮して床に視線を落とし、考え込んでいた私は、その間の長さにも窮して来た。切羽詰まって従兄弟の顔を見上げてみる。何か言ってくれるかしら?、そう次の言葉を期待してみる。と、従兄弟の顔は私の方を向いてはいたが、その目は座敷の方へ向けられていた。おやっと私は思った。如何したのだろう。

 そこで私は座敷の方へ自分の耳を傾けてみると、

「そうか、そんな事を頼みたいと言ったのか。」

と言う祖父の声がはっきりと聞き取れた。従兄弟は怒った様にきっと口を結んだ。その顔を見詰めた私の目には、従兄弟のその目にも怒りが見て取れた。

うの華3 92

2020-12-14 11:06:30 | 日記
 座敷では遂に、「ふう、そんなに言うならやってみるといいよ。」と、嘆息と共に父の許諾の声が上がった。ほんと!と、嬉しそうに喜ぶ従兄弟の声とはしゃぐ気配。おいおい、本当なのかその話と、意外そうな声の祖父。ああ、教義では一応そうなっているんだ、と父が言えば、そんな話聞いた事もないがと応じるのは祖父だった。

 それから、だがなぁと、私の父が歓喜する従兄弟に水を差す様に言った。実際の、現実の物事はそうとは限らないんだよ。お前の願いが叶うとは限らないからね。叶わないかもしれない、どちらかと言うと叶わない、それでもいいならお願いしてみるといい。そう、私の父は再び従兄弟に忠告した。そうして何をお願いしたいのだと聞くと、従兄弟は恥ずかしそうに、困惑した様子で内緒だと答えていた。そこで父は粘って、お前と私の間だ、内緒にして誰にも言わないからと、祖父にも内緒にすると約束して、如何やら従兄弟の願い事をこっそり聞いている気配となった。座敷がしんとしたのだ。と、

「それがお前の願いなのか。」

なる程なと言う、やや沈んだ様子の父の声がした。

 その後、行って来ると言う従兄弟の声、ああ言っておいでと私の父の声ががすると、漸くの事で、という気配を纏った従兄弟が居間の私の所へと戻って来た。

「疲れた。」

従兄弟の第一声だ。やはりねと私は思う。今迄の座敷の様子から私が予期していた通りの言葉だ。私は従兄弟の言葉を聞いて思わず苦笑した。その予想のあまりの的中率に、口からハハハと笑い声が出てしまう。

 おや、と、私の明るい笑い声に座敷の父の反応する声がした。「今の智の声じゃないか。」、そう彼は祖父に尋ねている。「はあて、さぁなぁ。」と、これは如何にもとぼけている感じの声の祖父だ。祖父は従兄弟同士、声が似ているのだろうと言う。あの2人が?、父の方は腑に落ちない気配だった。そうして亡骸は今何処に有るんだ等、何やら祖父にあれこれと尋ね始めた。

 私はここで目の前の従兄弟に注意を向けた。従兄弟は何時も、にこやかな笑顔で以って私に対してくれていた。それは柔和な目付きだった。それが今日は、笑顔の取れた円な瞳をしている。そんな目で以って瞬きもせずにじいっと私の目、その目の底の底を見つめて来るのだ。私はどぎまぎして来た。

 「智ちゃんも、何時も…、」

もう何時もじゃ無いか、従兄弟はそう言うとクフっと含み笑いした。ちょっと意地悪な色がその瞳に浮かんだ。従兄弟はここで一寸考えが浮かんだ様だ。私から視線を逸らし考えている気配になった。そうして思い浮かんだのだろう、こう言った。

「お祖父ちゃんや、智ちゃんのお父さんの話だと、」

そう言うと、何か可笑しかったらしく、ふふふと笑うと、従兄弟は堪えきれなかったらしく私からやや離れ、その背を私に向けるとハハハと笑い出した。

 その後落ち着いてこちらへ向きを変えた従兄弟だが、何やら余程可笑しいのだろう、こちらに戻ろうとしては吹き出し、くくくと笑いを堪え、私の顔を見てはぷっと吹き出しと、なかなかその歩みが進まず、元の様に私の側まで戻っ来るのに時間が掛かっていた。

 私はその間手持ち無沙汰となり、訳の分からない従兄弟の様子に付き合うのを止めた。私は従兄弟に対して少々腹を立てたのだ。そこで、座敷の方へと注意を向けた。そこから聞こえて来る音に耳を欹てていた。

 「その字なのかい。」

祖父の声に、そうだろうと父の返事はそっけない。紙に書いてもらうと、そう、この字かもしれないな。静かな祖父の声だった。今迄の様に子供相手の声とは違う大人同士の話し声、歯に絹着せぬ忌憚の無い話し声だ。何の話だろう⁉︎、私は子供心に興味を惹かれた。

うの華3 91

2020-12-14 09:48:41 | 日記
    私は自分の気持ちを刺激する従兄弟や祖父の光景、その姿が見えない様にと、座敷の入り口を避けて次の間の居間へと移った。ここだと彼等の声も、襖一枚隔てただけだが聞こえ難くなっていた。私は益々ほっとした。

 私の心身が如何やら落ち着いた頃、座敷の拍子木の音も止んだ。

「行くのかい?、」

如何しても?、じゃあ気を付けていくんだよ、取り憑かれない様にな。用心するんだよ。と、祖父の危ぶむ声。その声に送り出された様子でしずしずと、従兄弟は後ろ髪を引かれる様な出立ちで座敷の入り口に姿を現した。そうしてキョロキョロと辺りを見回し、居間にいる私を見つけると、従兄弟はじっと私の目を見詰めて来た。ゆっくりと慎重に歩を進め、従兄弟は私の所へとやって来る様子だ。私がその顔を窺ってみると、何しろ祖父の言った言葉が気に掛かるではないか、私だって用心していたのだ。誰にかというと、私の場合、それは私に近寄って来る従兄弟にだった。

 従兄弟は私が初めてみる様な目付きをしていた。それは、先程今日初めて私が従兄弟の顔を見た時にもうっすらと感じてはいた。今回、直前に祖父の言葉を聞いた事もあって、私は用心して注意深く従兄弟の様子を眺めた。思い詰めた様な、緊張した様な、物言いたげな従兄弟の瞳。切羽詰まった様な顔付きをして、という物なのだが、私の方はこの様な気配について、これ迄に知識も経験も皆無という物だった。従兄弟の非日常的な様子にさっぱり理由が分からなかった。そんな無言の儘に進んできた従兄弟は、私の直ぐ目の前に立った。

  「  如何したの?。」

私は尋ねた。座敷の方が楽しいだろうに、こう私は言った。祖父と遊ばないのか、拍子木は面白くなかったのか、私と遊ぶより祖父と座敷にいる方が楽しいだろうに、と自分でも言い様のくどさに気付きながら従兄弟に尋ねた。そんな私に従兄弟はふっと笑った。

「智ちゃんも兄さんと同じだな。」

そう言って、今迄じっと瞬きもせずに見詰めて来た私の目からその瞳を外して、従兄弟は視線を畳に落とした。そうして、ぼんやりと「上の子の、兄さん達というものは何処もそうなのだな。」と独り言を呟いた。

 私は顔を顰めた。私は兄さんじゃない事、上の子についても従兄弟の方が歳が上だから私は上の子じゃないと反論した。すると従兄弟は驚いた顔をして、一寸待っててと言うと祖父のいる座敷へと戻って行った。

 座敷では従兄弟の質問するらしい様子と、祖父のさぁなぁと言う、質問には不明瞭な答えの様子が伝わって来た。そして私の父の声も混じって来た。

「やぁ、お前来てたのか⁉︎。」

如何して来たんだ、こんな時に。と、私の父は不機嫌な様子の声になった。それを祖父は制した。「この子は何だかあれにお願いがあって来たと言うんだ。」と、祖父は父に従兄弟の弁護をする気配となった。

 「お願い?、こんな時にか?。」と、父はあくまで無愛想な声だった。が、祖父が私では何の事か分からないが、父なら理解出来るだろうと彼を持ち上げる様に言うと、父も叔父らしい普段の温和な声に戻った。そこで祖父が父に従兄弟の話を聞く様勧めたので、その後は私の父と従兄弟の間で何やら話し込んでいるらしい座敷の気配となった。

 「そうか、それで来たのか。」

父は感嘆した様子で言った。繰り返しそうかと言うと、父は、だが、それは無理だろう、あれがなったものではお前の期待には添えないだろう。そんな言葉が聞こえて来た。それでも従兄弟は諦めず、頑張って何やら訴えている様子で、父や祖父の困惑した声が聞こえていた。

 私は居間でそんな彼等3人の話声を、極力注意せずに聞くでも無く聞き、また、聞かぬ様にもしていた。私が逐一耳を澄まして彼等の話を聞けば、またゾロ妬みの気持ちが起こりそうで嫌だったのだ。私は彼等の声を聞かぬ様にする事に努めていた。

今日の思い出を振り返ってみる

2020-12-14 09:35:22 | 日記

うの華 121

 「大体、家にはねえさんもいるだろうに。」そう言うと、祖父は「私が今、家に1人で居る訳じゃない。」と素っ気無かった。祖父は再び視線を壁に戻した。そうしてその儘、客間用に美しく化......

 いよいよ夜には雪が、今冬の初雪が見られそうです。私は今日から障子張りです。

 家では改築してから雪見障子という風流なものがあり、最初は物珍しがっていたのですが、障子の張り替えをする時になって結構面倒な物だと分かりました。外せる方、上に挙げられて外せる方の障子は、小サイズになり軽くて取り扱うには便利なのですが、ガラス部分の付いている障子の方は重くて、しかも倒すとガシャン!、ですよね。この障子、紙も貼りますが気も張ります。疲れる障子です。

うの華3 90

2020-12-12 18:01:30 | 日記
 座敷でにこやかにはしゃぐ、私の従兄弟と祖父。明るく楽しそうなその様子に、私は1人この部屋に残った寂しさを覚えていた。先程まで目の前にいた従兄弟へ感じた私の優越感、これはそれの裏返しになる私の気持ちや状態だと感じた。そして、座敷から上がる従兄弟の明るい声が私の耳に入る度に、私の心の中には胸を締め付けるようにやきもちめいた嫉妬心が沸々と湧いて来る。

    私は思った。こんな物なのだ、人の優劣を感じる有り様という物は。私は漠然と自分の中に湧いた暗い感情に、この人の世の、人というものが抱く優劣に対する人情の機微を重ねた。すると、劣勢にはなりたくないものだなとしみじみと感慨深く感じた。とはいえ、自分が優位になれば、対する相手は今私が感じた様な重苦しい劣等感を胸に感じるのだろう。それも可哀想な事だと思う。だが、その為に自分が焦燥感を持つのも嫌だ。私はこう煩悶すると、はぁっと、人の世とは難しい物だなと溜め息が出た。

 きゃ、ははは。従兄弟の声だ、わはははは、楽しいな。祖父だ。思わずはっきりとした悪感情が私に湧いた。先程生まれて初めて感じた思いより強い、この新しい感情が私の心の中にきちんと形をとって成長して来ているのを私は感じた。私は自分の中に巣食った暗い感情に、自分の胃の腑が重くなる圧迫感を感じていた。これは何だろう、どうしても感じなければならない物なんだろうか。このくらい影に自分の気持ちが冷えてくるようだ。私はそう思った。

    すると、これは良く無い思いだ。自分の体には悪い気持ちだ、と私は判断した。何しろ私の胃が圧迫されて、可なり具合が悪くなるのだ。そこで私は、この感情は持たない方が我が身の為だと考えた。私は極力今胸に有る暗い物を胸の外へ追いやろうと努力してみた。

 が、平静になろうとすると、またもや私の耳に仲睦まじく遊ぶ従兄弟達の声が響いて来る。嫌なものだ、私は思った。一旦静まり追い出せそうだった黒い物が、心中に再び勢いを増して戻り、復活して来るのを私は感じたのだ。自分の感情がコントロール出来ないなんて、そんな事あるのだろうか?、この事に私は驚き、不安に思った。

    『出来無いのだろうか⁉︎。』

自分自身が持つ気持ちなのに、自分で思い通りに出来ないなんて、そうなんだろうか!?。どうやらそうらしい。私はこの暗い感情への不可抗力を悟ると、その事に、これから送って行く自分の人生という旅で、自分の健康の不安を思った。

    こんな事では元気に自分の人生を送って行けないのではないか、自分の人生の旅を、病になり途中で終える事になるのではないか。案外早く自分の人生は終わるのではないか。病の元になりそうな、この雨雲の様に黒い暗雲を何とか出来ないものか、私は惑った。

    どう思い惑っても、私には自分から悪感情を追いやる方法、消し去る方法が分からないのだ。私は自らの非力を嘆いた。

    不可抗力という物を知り、どうやら駄目だと、諦めの境地に入ろうとした私だった。これでは自分の人生、もう良くはならない物だなと、私は項垂れ、がっかりしかけていた。その時、ふと、皺々と萎んだ自信の無い私の気持ちに、ふと、その気持ちの中に、私は気付いた。そこに暗雲の無い事に。私は気付いたのだ。

 おや、はっとして自分の心の内、隅々を弄ってみる。ほんの今迄、多分そうだ。考えていた時間はどれ程だろう?。そう長くないと思う。今の今迄と、考えてよいだろう。私は思った。『ほんのさっきまで、追い出せない、消せないと思っていた黒い物がもう無い様子だ。』。本当に?、自らに半信半疑、心の内を再度覗き込み、その中を訪ね歩いてみる。黒雲の、破片さえ見えない。無いのだ!。雲といえばそこには白い霞のような物が広がるだけ、そこは雲上の水蒸気の世界だった。確認を終えた私はホッとして、我が身が涼しくなった様に感じた。正に空に漂う心地がした。