碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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フライデーダイナマイトで、「芸能人の事故多発」について解説

2012年11月03日 | メディアでのコメント・論評

発売中の「フライデーダイナマイト」最新号に、“芸能人の事故多発”に関する特集記事が掲載されました。

タイトルがすごい(笑)。

『このままじゃ殺される! 芸能界「残酷ロケ」事件簿』。




記事は、「まるでサーカスだ!最近、芸人をはじめとする芸能人がロケ現場で大ケガを負うといった衝撃的なニュースが相次いで報道されている」という書き出しで始まる。

芸人編、役者編、タレント編、アーティスト編などに分けて、これまでにあった無茶な企画、事故の事例を、4ページにわたって紹介。

この記事の最後で、少し長めの解説をしています。


視聴者は安易な企画を求めていない

ここ数年、番組制作費は削減傾向にあり、バラエティ番組の撮影では、飛び込み台など既存の施設をそのままロケに使うようになりました。そのような施設のロケでも、以前であれば、安全を確認するために多くのスタッフを用意しましたが、現在は予算削減の影響でスタッフの数も減っています。このような“現場の劣化”の中で、危険なロケが行われているのが現状です。

また、スギちゃんの飛び込みのような企画は、普段やらない、不慣れな人がチャレンジする点に面白さがあるので、そもそも安全とは矛盾する企画です。また現在の番組制作の7~8割は、制作会社が関わっている状態です。テレビ局だけでなく、制作会社でも安全対策を徹底しなくてはなりません。

このような背景の中で、視聴者が求める体を張ったネタもエスカレートしてきました。飛び込みを例にとるなら、今までは5メートルの高さから飛び込むのが面白かったとしても、視聴者がそれに慣れてきたら、もっと高い所から飛び込めとハードルが上がります。これも事故につながる要因です。

かつてのドリフターズの番組は、上から樽が落ちてきたりと、一見危険なように見えましたが、これらは入念なリハーサルによって作り込まれたものでした。それが、今では、ただ飛び込ませるといった安易な企画に変わってしまいました。制作者のクリエイティブな発想力が衰えたとも言えます。

ナインティナインの岡村隆史さんの、「コンプライアンスが高まると、面白い番組が作れない」という発言も、実はすべて危ないものはダメというのではなく、中身をもっと考えていくべきではないかという意図があるのだと思います。しかし、多発するロケ中の事故を受けても、この流れはすぐには変わらないでしょう。現在のバラエティ番組は5年前と内容が変わっていません。危険な企画が減っているように見えても、今は様子を見て自粛しているだけです。

そもそも、今のお笑いの流れは、ドリフターズの作り込まれた笑いに対するアンチとして出てきた、思いつきや感性による出会い頭の笑いを見せる「オレたちひょうきん族」が原点で、それが現在のお笑いバラエティにつながっています。

しかし、今は視聴者も成長しています。安易な体を張ったネタが受けると思っているのは制作者だけです。今のバラエティ番組を見て視聴者が笑うのは、面白いからではなく、視聴者が制作者を見下して笑っているだけです。成長した視聴者は自分たちのニーズを満たしてくれる“知的エンターテイメント”を求め始めています。今後は、クリエイティブな知的エンターテイメントの時代になると思いますよ。

碓井広義/55年生まれ。テレビマンユニオン・プロデューサー、慶應義塾大学助教授、東京工科大学教授などを経て、現在は上智大学教授。メディア論や放送評論が専門。現在、東京新聞、北海道新聞、日刊ゲンダイに連載をもつ。

(フライデーダイナマイト 2012.11.12増刊号)