日刊ゲンダイに連載中の番組時評「TV見るべきものは!!」
今週、書いたのは、テレビ東京「孤独のグルメ シーズン2」です。
孤独のグルメ シーズン2
「職業人」でも「家庭人」でもない
自由な自分がそこにいる
「職業人」でも「家庭人」でもない
自由な自分がそこにいる
水曜の深夜23時58分という半端な時間に始まるテレビ東京「孤独のグルメ シーズン2」。これが結構クセになる。
登場するのは井之頭五郎(松重豊)ほぼ一人。個人で輸入雑貨を扱っているが、松重の仕事ぶりを描くわけではない。商談のために訪れる様々な町に実在する食べ物屋で、フィクションの中の人物である松重が食事をするのだ。テレビ東京は「グルメドキュメンタリードラマ」と称している。
番組のほとんどは松重が食べるシーンで、そこに彼の“心の中の声”がナレーションされる。たとえば先週放送した京成小岩駅近くの四川料理「珍珍」。松重が食べたのは「豚肉のニンニクタレかけ」「魚の四川漬物煮込み」など実際にこの店で出している品々だ。
さらに他の客の水餃子を目にした松重は、「見るからにモチモチした皮。口の中で想像がビンビンに膨らむ。たまらん。たまらん坂(田原坂?)」などと内なる声を発し続ける。この“とりとめのなさ”が何とも心地いい。
常に一人で食事をする松重(設定では独身)だが、そこにいるのは「職業人」としての自分でも「家庭人」としての自分でもない。いわば本来の自分、自由な自分だ。それが大人のオトコたちには実にうらやましいのである。
誰の目も気にせず、値段や見かけに惑わされず、うまいものを素直に味わうシアワセがここにある。
(日刊ゲンダイ 2012.11.20)