<碓井広義の放送時評>
コロナ禍に課題噴出
今年の放送界を回顧
12月になった。今年もまたコロナ報道が軸となった放送界だが、注目すべき出来事は少なくなかった。
3月、日本テレビ系「スッキリ」がアイヌ民族の女性を描いたドキュメンタリー作品を紹介する際、お笑い芸人が披露した謎かけの中に、アイヌ民族を差別する言い回しがあった。
7月に放送倫理・番組向上機構(BPO)が放送倫理違反を認め、8月26日の同番組内で制作体制などの検証が放送された。
また、テレビ朝日系「報道ステーション」も3月に公開したWeb用の番組CMで、ジェンダー問題を「解決済みのこと」であるかのように描いて批判を浴びた。いずれも人権問題を報じるテレビ局自身の「人権意識」の低さを露呈する形となった。
同じ3月、放送事業会社「東北新社」の外国資本の出資比率が20%を上回り、放送法に違反していたことが明らかになる。同社は総務省幹部らを繰り返し接待しており、国会では衛星放送事業の認定をめぐる対応に疑問の声が上がった。
この外資規制違反問題はフジ・メディア・ホールディングスでも発生している。総務省は8月、放送事業者と放送持ち株会社が認定や免許申請の際に提出する書類の様式を改め、外資比率を正確に把握する対応策を公表。放送界全体がその姿勢を問われる痛恨事だった。
10月に行われた衆議院議員選挙。民放「選挙特番」のメインキャスターの顔ぶれに驚いた。日本テレビ系は有働由美子。テレビ朝日系は大越健介。テレビ東京系は池上彰。フジテレビ系が宮根誠司と加藤綾子。そしてTBS系は「爆笑問題」の太田光だったのだ。
5局のうち3局がNHK出身のフリーランス。他もフリーのアナウンサーとタレントだ。自前のキャスターが育たなかったのか、それとも育てる気がなかったのか。
もちろん報道も放送ビジネスの一環であり、顔と名前が売れている人を引っ張ってくる方が手っ取り早いかもしれない。しかしそこには、「ジャーナリズムとしての責任」をどう担保するかという課題が歴然と残っている。
そして11月、衝撃的なニュースが飛び込んできた。フジテレビが、勤続10年以上で50歳以上の社員を対象に希望退職者を募ることを決定したのだ。一般企業でも見られるリストラを、なんとキー局が行うことになる。
現在、「関東沈没」から「日本沈没」へと大災害が進行するドラマが放送されているが、果たしてフジの人事政策はリアルな「放送界沈没」の予兆なのか。来年も注視を続けたい。
(北海道新聞 2021.12.04)