朝ドラとラジオの運命
連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」(NHK)が好調だ。放送前、「3世代のヒロイン、100年の物語」を半年で見せると聞いて心配した。何しろ主演女優が3人いるのだ。1人当たり2ヶ月。見る側がついていけないのではないかと思ったのだ。しかし杞憂だった。
過去に朝ドラ「ちりとてちん」も手掛けた、藤本有紀の脚本はスピーディーなのに濃密だ。舞台は戦前から戦後の岡山。和菓子屋の娘、安子(上白石萌音)が経験する恋、結婚、夫の出征と戦死、出産と子育てなどが丁寧に描かれてきた。
そして、もう1人の家族のように、安子に寄り添ってきたのがラジオの英語講座だ。特に実在の講師、平川唯一(声・さだまさし)の温かい語りかけが励ましとなった。戦時中は敵性語だった英語と親しんだことで、安子の人生は思わぬ展開を見せるのだが、上白石にはこの前向きなヒロインがよく似合う。
一方、ラジオの前で楽しそうに英語講座を聴く母娘の姿を見ていて思い出したことがある。今年1月に発表された「NHK経営計画(2021-23年度)」だ。
スリム化による構造改革を目指して、「保有するメディアの整理・削減」を宣言。衛星波と共にラジオもその対象となったのだ。25年度に現在の3波(R1ラジオ第1/R2ラジオ第2/FM)から2波(AM/FM)へと削減する予定だが、この場合、R2が消えるだろう。
NHKは「民間放送のAMからFMへの転換の動きやリスナーへの利用実態調査の結果などを考慮」するという。しかし公共放送のラジオには独自の機能や役割があり、本来、民放に追随する必要はないはずだ。
R2は語学講座などの教育・生涯学習面や防災面で有効な上に、大きなコストもかかっていない。改革自体が目的化された結果、BSやラジオなど扱いやすそうな部分を整理・削減の対象とした印象が強いのだ。
ラジオ100年の歴史と待ち受ける危機。ならば今回の朝ドラは、消えゆく運命にある「ラジオ講座」への哀悼なのか。それとも消してしまうことへの贖罪(しょくざい)なのか。「皆さま(エヴリバディ)のNHK」の姿勢が朝から問われている。
(しんぶん赤旗「波動」2021.12.20)