碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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産経新聞で、「バラエティー番組とコンプラ」について解説

2021年12月24日 | メディアでのコメント・論評

 

 

バラエティー番組にコンプラの波 

罰ゲームや容姿いじりダメ?

芸人のビンタや体を張った罰ゲーム、タレントの容姿いじり…。テレビのバラエティー番組で行われてきたこうした表現が過渡期を迎えている。

暴力や性的なことに関する言動に厳しい目を向ける意識が近年高まっているためで、放送倫理・番組向上機構(BPO)の青少年委員会では現在、「痛みを伴うことを笑いの対象とするバラエティー」について審議している。一方でユーチューブなどの投稿動画では、過激な表現が多くの閲覧数を得ている。

テレビにおける表現の自由はどこまで許されるのか。(道丸摩耶)

                 ◇

 ◆芸人戸惑い

「体を張ってリアクションをしているのに、(タライ落としのタライの位置が)年々低くなってる」

11月11日に放送された「ダウンタウンDX」(日本テレビ系)で、バラエティー番組の変化をそう明かしたのは、お笑いコンビ「霜降り明星(みょうじょう)」だ。同番組では「2021年大激変! この先どうなるバラエティー界!」とのテーマで芸人がトーク。

これまでやってきたお笑いの表現について、スタッフから「コンプライアンス(社会的な規範意識)的にだめ」と言われることが増えたと訴えた。

背景には社会環境の変化がある。企業のコンプライアンスに加え、セクシュアルハラスメント(性的嫌がらせ)などのハラスメント行為に対する世間の目も厳しくなっている。テレビの制作現場にもこうした「コンプラ重視」の波が広がり、作り手側も対応を迫られているのだ。

若者がニュースやトレンドを語り合うトークバラエティー「超無敵クラス」(日テレ)の担当プロデューサーは10月の番組開始に先立つ説明会で、新番組のイメージを、ときに赤裸々な恋愛経験の話が飛び出した過去のヒット番組「恋のから騒ぎ」になぞらえながらも、テーマや内容は現代のコンプライアンスに合わせていると説明した。

 ◆ネットは過激ネタ

今年8月、放送倫理上の問題に対応するBPOの青少年委は「痛みを伴うことを笑いの対象とするバラエティー」を審議対象とすることを決めた。

特定の番組が対象ではないが、ある民放ディレクターは「出演者に痛みを与える罰ゲームやドッキリの企画で笑いを取ることを問題視しているのだろう」と解釈する。

青少年委は前身組織だった平成12年、「めちゃ×2イケてるッ!」(フジテレビ)の「しりとり侍」というコーナーを、「大勢で一人をたたき、仲間で笑いものにする場面はいじめの形にきわめて近い」と指摘。まもなくこのコーナーは打ち切られた。

19年には、罰ゲームに代表される「出演者の心身に加えられる暴力」と「性的な表現」に対し、青少年への影響を考慮して表現を検討するよう見解を出した。その後も各局のさまざまな番組が審議されたり、審議されないまでも見解が示されたりしてきた。

こうした社会の流れを受け、番組にも変化がみられる。日テレは今年、高視聴率を記録してきた大晦日(みそか)恒例の「笑ってはいけない」シリーズの放送を休止する。

同局の杉山美邦社長も出演者のダウンタウンの松本人志も、BPO審議との関連性を否定するが、同番組は過去に青少年委から問題視されたこともある。

民放関係者は「休止の判断に、社会の変化が影響していることは間違いないだろう」とみる。

テレビから派手な罰ゲームなどの表現が消える一方で、インターネットの投稿動画では過激なネタが閲覧数を稼いでいる。

あるドラマプロデューサーは「見たいものを見るネット動画と、リモコンを押せば映るテレビ番組は違う」と話し、「本格的な刑事ドラマを作るときも、地上波ではむごたらしい死体を映せないなどの規制があるが、有料の衛星放送では可能だ」と明かす。

 ◆社会インフラに

元上智大教授でメディア文化評論家の碓井広義氏は「あらゆる表現は自由である方がいい」と前置きした上で、痛みを伴う笑いが問題視される理由として、社会通念の変化に加え、とがった番組が減ったテレビが、社会インフラとして安全、安心のメディアと認識されていることを挙げる。

その上で、「舞台や映画、ネットとさまざまな表現の場がある中、テレビという表現の場でどんな笑いを見せるかを考えないといけない」と制作側に注文をつける。

(産経新聞 2021.12.22)

 


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