2025年02月05日
北海道機船漁業協同組合連合会内 一般社団法人北洋開発協会 原口聖二
[洋上風力発電と漁業 日本の経験#99 千葉銚子沖洋上風力 資材価格高騰などで着工見通し立たず]
①洋上風力発電が本当にCO2削減に貢献するのか、②洋上風力発電事業自体が再エネ賦課金だのみの不採算事業であり漁業分野を含め満足な補償等に対応がなされるのか、③政府が責任をもったMSP(海洋空間計画)を設定すべきではないのか、④政府がベースラインをしっかり作るような漁業影響調査を指導すべきではないのか。
2025年2月5日、NHKは千葉県銚子市の沖合で進められている洋上風力発電の建設をめぐり、計画を担う大手商社の三菱商事などで作る事業体が、資材価格の高騰などから着工の見通しが立たないとする状況を地元の関係者や県などに伝えていたことが分かったと伝えている。
銚子市の沖合では、三菱商事や中部電力の子会社などでつくる事業体が、国の公募を経て洋上風力発電の建設計画を進め、3年後、2028年の運転開始に向けて先月(2025年1月)、関連する設備の着工が予定されていた。
これについて、事業者側が現状では着工の見通しが立たないとする状況を4日までに地元の関係者や県などに対し伝えていたことが分かった。
関係者によると事業者側は、円安や資材価格の高騰に伴うコストの大幅な増加を理由に挙げたうえで、「事業の仕組みを見直して、撤退とならないよう努める」と述べたとしている。
洋上風力発電をめぐっては、事業体を構成する三菱商事が「当初の想定を上回る事業環境の変化に伴い事業の採算性を再評価する」と公表しているほか、中部電力も当初よりコストがかさむことが明らかになったとして、去年4月から12月までの決算で179億円に上る損失を計上している。
(関連過去情報)
2022年7月7日 日本経済新聞様から転載
“洋上風力、足元を漁場に 千葉・銚子市漁協が調査会社”
銚子市漁協の依頼で始まった海洋調査では潜水ロボットも活用
千葉県銚子市沖の洋上風力発電計画を漁業振興に生かそうと、銚子市漁業協同組合が動き始めた。漁業との共生策を探る新会社を設立し、海中の状況や水産資源の実態を把握するために独自の海域調査に乗り出した。発電事業者に選ばれた三菱商事グループとも連携し、建設される風車の足元を漁礁に活用して新たな漁場づくりを目指す。
銚子市漁協の100%出資で5月に新会社「銚子漁業共生センター」を立ち上げた。本社は漁協内に置き、資本金は100万円。洋上風力発電計画に漁業活性化策を反映させるため、新たな漁場の開拓などに必要な調査や研究をする。
犬吠埼灯台の周辺など銚子市沖の広い海域で海洋調査を続ける
海域調査も5月から本格化した。国が再エネ海域利用法に基づいて事業者に最長30年間の占有を認める促進区域やその周辺が対象。2024年まで3年をかけて調査船のソナーで海底の地形データを集めるほか、潜水士や水中ロボットにより潮流、海水温、四季に応じた魚介類や海藻の生息状況などを把握する。
海洋調査や海中工事を長年手掛けてきた渋谷潜水工業(神奈川県平塚市)に調査を依頼した。同社は東京湾アクアラインなどの大規模工事に関わり、人工の海中構造物に漁礁と同様の効果があることに着目。全国に先駆けて浮体式風車による洋上風力発電の促進区域となった長崎県五島市沖でも海域調査に関わってきた。
五島市沖では風車の足元に伊勢エビが住み着くほか、繁殖した藻やプランクトンが小魚を集め、それがカンパチなど大型の回遊魚を引き寄せるなど、以前より魚種が豊かになりつつあるという。洋上風力で先行する欧州でも、こうした「風車魚礁」の活用が注目されている。
銚子市沖は秋田県沖とともに風車を海底に固定する着床式の第1弾。さらに銚子市漁協の坂本雅信組合長が6月に全国漁業協同組合連合会の会長に就任し、全国の漁業関係者に対する影響力も大きい。渋谷潜水の渋谷正信社長は「洋上風力と漁業との共存共栄の見本づくりを目指したい」と話す。
銚子市漁協のお膝元の銚子漁港は11年連続で水揚げ高日本一を誇るが、大半が東北など地元以外に所属する漁船により持ち込まれ、地元のシェアは2割足らず。高齢化や後継者難から地元漁業者の漁船はこの10年ほどで3割近く減った。
銚子市漁協は事業者が漁業振興のために資金を拠出する基金を活用し、海域調査などに取り組む。洋上風力計画への協力を通じて沿岸部で新たな漁場を育て、「素晴らしい漁業をつくっていきたい」(和田一夫副組合長)と成果に期待する。
銚子市沖の洋上風力発電計画は国の公募を経て21年12月、三菱商事を中心とする企業連合が事業者に選ばれた。風車31基で28年9月から発電を始める予定で、25年に送電線の敷設など陸上工事、27年に風車の設置など洋上工事に入る。
JAWAN通信 No.143 様 2023年5月10日発行から転載
優良漁場をつぶす洋上風力発電 ~千葉県いすみ市沖 漁師が「待った」~
政府は、洋上風力発電を再生可能エネルギー推進の切り札として位置づけている。だが洋上風力も問題が山積している。漁業への影響も大きい。千葉県のいすみ市沖では、大切な優良漁場がつぶされるとして漁師たちが猛反対している。(中山敏則様)
◆候補地は日本有数の優良漁場
政府は、いすみ市沖を洋上風力発電促進の有望地域に指定した。候補地には磯根(沿岸の岩礁域)が広がる。海藻が生い茂る岩礁である。魚のすみかとなっている。広さは東京ドームのおよそ1800個分。日本有数の優良漁場である。風力発電の建設によってそこがつぶされると、漁師にとっては死活問題となる。そのため、候補地で漁を営んでいる鴨川市の漁師たちは猛反対している。
元東邦大学教授の秋山章男さん(故人)は、九十九里浜自然誌博物館を主宰していた。いすみ沖や南九十九里浜の生態系に造詣が深かった。秋山さんは、いすみ市の沖合に広がる磯根を「いすみ根」と名づけた。こう述べた。
「いすみ根は、水深10~20mの起伏豊かなところにカジメの林が海の里山のように広がっている。海中林というべきものである。1本のカジメの根には、数百もの生物が棲みつき、それらがいすみ根の生物を支えている。いすみ根は日本有数の漁場となっている。北上する暖流の黒潮と南下する寒流の親潮がぶつかりあうところである。そのために良好な漁場が形成され、多種多様な魚介類が生息している。イセエビ、サザエ、アワビ、タコ、イシダイ、イワシ、アジ、タイ、ヒラメ、イナダ、スズキ、ウマヅラハギ、イサキ、フグ、ホウボウなどである。漁師にとって、いすみ根は重要な漁業資源となっている。いすみ根を『銀行』と呼んでいる漁師もいる。『元金』に手を付けずに『利息』だけでやっていけるからだ。私は南九十九里で1000種類の生きものを確認している。その南九十九里生態圏ともいうべき圏域の根幹をなすのがいすみ根である」(『JAWAN通信』第112号)
◆反対漁協を協議会から排除
千葉県の外房には15か所の漁港がある。そのなかで、鴨川漁港はいちばんの漁獲量を誇っている。鴨川漁港を拠点とする鴨川市の漁師たちは「いすみ根」で巻き網漁をおこなっている。獲るのは、ブリやサバ、イワシなどの青魚だ。
その優良漁場が洋上風力発電の候補地になっている。風車の数は三十何基と予想されている。洋上風力発電が建設されると、ここを重要な資源としている漁師たちは大打撃を受ける。そのため、鴨川市の漁師たちは洋上風力発電事業に反対している。
政府は、風力発電設備ができることで利害関係が発生する漁業者を協議会によぶことを義務づけている。ところが、いすみ市沖の洋上風力発電事業を話しあう協議会に鴨川市漁協はよばれなかった。
協議会の名称は「千葉県いすみ市沖における協議会」。政府と千葉県が共催し、第1回会合が昨年2月に開かれた。そこによばれたのは、候補地で漁をおこなっているほかの漁業協同組合(夷隅東部漁協、御宿岩和田漁協)と県漁業協同組合連合会だけだった。
この問題を今年3月12日放送のBS-TBS「噂の!東京マガジン」が「噂の現場」でとりあげた。鴨川市の漁師たちは協議会からの排除を批判し、こう訴えた。
「私たちは、洋上風力発電の候補地となっている海域で巻き網漁を営んでいる。巻き網漁に従事する漁師はおよそ150人である。40代、50代という働きざかりの漁師たちも数多くいる。みんな若くて、漁業をつづけようと張りきっている漁師が多い。巻き網漁は5隻ぐらいの船団を組んでやっているから、従業員も1船団あたり30人ぐらいいる。洋上風力の候補地となっている区域は本当にいい漁場だ」
「利害関係人の意見を広く聴取すると聞いていたのに、私たちは協議会のメンバーからはずされた。洋上風力発電の建設にあたっては漁業者の同意が必要となっているのに無視されている。私たちはそのことに怒っている」
千葉県はなぜ鴨川市漁協を協議会によばなかったのか。番組の取材にたいし、県は答えた。
「鴨川市漁協は、洋上風力発電候補地での操業実態など利害関係があることを認定するに足る客観的な情報がない。そのため、協議会の構成員には含まれていない。当該区域で操業していることを示す客観的なデータの提出を鴨川市の漁業者に依頼してきたが、提出がなかった」
鴨川市の漁師たちは反論する。
「納得いかないというか、びっくりしている」
「操業実態がないと県は言うが、私たちがそこで操業しているデータはきちんととってある。県から聞かれたさいも説明した」
その記録データを番組で見せてくれた。
◆漁協と漁師の間に温度差
番組の取材ではこんなことも明らかになった。
協議会には、夷隅東部漁協と御宿岩和田漁協が出席した。両漁協は、候補地を漁場として利用する頻度が落ちたので、風力発電事業への協力を前向きにとらえているという。風力発電事業に協力すれば協力金みたいのが入ってくるから、そっちのほうがいいとの選択もあるという。
だが、両漁協に所属している漁師たちが同じ考えかというと、そうでもない。漁協としては賛成だが、現場で働いている漁師からは、それはちょっとな、という反対の声もでている。
「優良漁場となっている岩礁(磯根)ではなく、鴨川の方に候補地をずらすことはできないのか」との問いにたいし、番組はこんな取材結果を示した。
「鴨川のほうは砂地だ。岩礁ではない。砂地で洋上風力発電を建設すると、もっと深く基礎工事をおこなわなければならない。岩礁でないと魚が集まらないが、岩礁でない区域では風力発電の建設がたいへんになる。洋上風力発電は国策なので千葉県も推進したい。いすみ市の沖は岩礁であり、建設しやすいということで候補地に選んだ」
洋上風力発電にくわしい海洋物理学者の河野時廣さんも番組に登場し、こう指摘した。
◆風車の建設しやすさで候補地を選定
「政府は再生可能エネルギー(再エネ)を推進している。だが、風力発電の比率は小さい。比率を上げようとすると、今は1基あたりせいぜい2000~4000kWなので、沿岸を風車だらけの状態にしないと石油・石炭火力発電に代わる発電所はつくれない」
いま稼働している洋上風力は秋田県沖の33基だけである。政府は、2030年までに洋上風力発電で1000万kWをまかなうとしている。2500基の洋上風力を新たに建設することになる。そうなれば、各地でさまざまな問題をひきおこす可能性がある。沿岸漁場にも大きな影響がでる、と専門家は言う。
秋田県沖は「洋上風力銀座」と呼ばれている。昨年12月から今年1月にかけて33基の商業運転がはじまった。洋上風力発電の受け入れ賛否をめぐって漁師は揺れた。3分の1近くの漁師が反対した漁協もあった。しかし「魚がとれなくなる心配はあるが、風車が建って補助金をもらいながら漁をする方がプラス」と説得され、賛成に傾いていった。とはいえ、補助金は関係自治体や漁協間の配分など未確定な部分が多い。地元では、政府や大企業との慣れない会議や接待に戸惑う声も漏れるという(『毎日新聞』2023年4月13日)。カネと接待による懐柔である。
◆危機に瀕する沿岸漁業
洋上風力を2500基も新設すればどうなるのか。日本の沿岸は風車だらけになる。沿岸漁業は大打撃を受ける。日本の食料自給率はますます下がる。自然や景観の破壊も進む。
風力発電は不安定である。風が弱かったり強すぎたりすると発電できない。洋上風力発電を2500基整備したとしても、電力の安定供給は不可能だ。現に、昨年3月と6月の電力ひっ迫では風力発電はほとんど役に立たなかった。そこでバックアップ用として火力発電所が必要となる。風力発電は必然的に二重投資となる。
メディアや政党、消費者団体、さらに市民団体などの多くは再エネ過信に呪縛されている。そのため、風力発電の本質的な弱点や漁業への影響などには目を向けない。今年4月3日の『東京新聞』は、洋上風力の野放図な推進を後押しする記事をデカデカと載せた。記事のタイトルは「急げ!洋上風力発電」である。沿岸漁業が危機に瀕していることを黙殺し、洋上風力を手放しで称賛している。なんとかしなければ、と思う。