2023年04月30日
リポート 北海道機船漁業協同組合連合会内 一般社団法人北洋開発協会 原口聖二
[他国EEZに禁漁期間設定を発表する中国 ベトナム漁業協会が領有権侵害と批判]
ベトナム漁業協会は、南シナ海の一部海域に中国政府が禁漁期間を設定し、これを発表したことについて、領有権侵害だと批判して、不当な禁止を直ちに終了するよう中国に要求する外交対応を自国政府に求めた。
中国は、今年2023年も、西沙諸島(パラセル諸島)周辺海域を含む南シナ海12°00′N–26°30′N海域について明日5月1日から8月16日までの間、漁業活動を禁止すると発表した。
一部漁業種に例外設定があるが、中国の発表した禁漁期間は次のとおりとなる。
渤海/黄海 5月1日-9月1日 35°00′N 以北海域
南シナ海/東シナ海 5月1日-8月16日 12°00′N – 26°30′N 海域
黄海 5月1日-9月16日 26°30′N – 35°00′N 海域
ベトナムは漁業禁止区域の一部が、西沙諸島(パラセル諸島)の領有権を侵害するものであり、2000年に両国が締結したトンキン湾境界画定協定にも違反するとの立場をとっている。
西沙諸島(パラセル諸島)は、ベトナムの東約240km、中国の海南島の南東約300kmに位置し、50近いサンゴ礁の島と岩礁で構成されている。
全ての島嶼を中国が実効支配しているが、ベトナムに加え台湾も領有権を主張している。
一方、中国は南シナ海の約90%に対する領有権を主張し、周辺に沿って一方的に*“九段線”を引き、人工島を建設しながら軍事基地化して論議を触発している。
なお、2016年7月12日、オランダ・ハーグの国際常設仲裁裁判所は、九段線とその囲まれた海域に対する中国が主張してきた歴史的権利について、「国際法上の法的根拠がなく、国際法に違反する」とする所謂*“南シナ判決”を下している。
*九段線、またはU字線、牛舌線は、南シナ海にある南沙群島(スプラトリー諸島)や西沙諸島(パラセル諸島)の領有権及び両諸島周辺の領海、排他的経済水域(EEZ)、大陸棚といった海洋権益問題に関して、1953年から中国と台湾がその全域にわたる権利を主張するために地図上に引いている破線で、断続する9つの線の連なりにより示される。
2012年5月15日から中国の発行するパスポートの査証欄に九段線が印刷されている。
*南シナ海判決
1982年の国連海洋法条約附属書VIIに基づく南シナ海問題に関するフィリピンと中国の国際仲裁判決。
通称、南シナ海仲裁判決(裁定)。
この事件は、中華人民共和国が、海域や島々の領有権を有すると主張してきた、いわゆる九段線に囲まれた南シナ海の地域について、フィリピンが国連海洋法条約の違反や法的な根拠がない権益の確認を国際常設仲裁裁判所に対して申し立てた仲裁裁判となる。
2013年からフィリピンは中国に対して警告を行ってきたが、中国側が拒絶してきたため、2014年、フィリピンは常設仲裁裁判所に対してパネルを設置し、仲裁を要望した。
2016年7月12日、オランダ・ハーグの国際常設仲裁裁判所は、九段線とその囲まれた海域に対する中国が主張してきた歴史的権利について、「国際法上の法的根拠がなく、国際法に違反する」とする判断を下した。
判決の概要
中国による九段線で囲まれた海域に対する歴史的権利等の主張は、国連海洋法条約に反するもので認められない。
スカボロー礁、ガベン礁(北側の礁のみ)、ケナン礁(ヒューズ礁を含む)、ジョンソン南礁、クアテロン礁及びファイアリー・クロス礁は、いずれも「岩」であり、12海里の領海のみを有する(排他的経済水域(EEZ)及び大陸棚を生成しない)。
南沙諸島の「高潮高地」(例えば、イツアバ島、パグアサ島、ウエストヨーク島、スプラトリー島、ノースイースト島、サウスウエスト島)はいずれも、国連海洋法条約121条3項で定める「人間の居住又は独自の経済的生活を維持すること」ができる海洋地勢ではなく、EEZ及び大陸棚を生成しない。
ミスチーフ礁、セカンドトーマス礁及びスビ礁は、いずれも満潮時に海面下に沈む「低潮高地」であり、いかなる海洋権限も有さない。