2024年12月12日
北海道機船漁業協同組合連合会内 一般社団法人北洋開発協会 原口聖二
[ #107 洋上風力発電と漁業 海外の経験ヴェスタス 需要減で洋上タービン製造終了 300人削減]
“需要減 その役目を終えた これからは陸上で”
①洋上風力発電が本当にCO2削減に貢献するのか、②洋上風力発電事業自体が再エネ賦課金だのみの不採算事業であり漁業分野を含め満足な補償等に対応がなされるのか、③政府が責任をもったMSP(海洋空間計画)を設定すべきではないのか、④政府がベースラインをしっかり作るような漁業影響調査を指導すべきではないのか。
日本での先行する欧米の洋上風力発電の漁業分野との共栄、相乗効果等の成功体験は、ほとんどが開発事業者による切り抜き発信で、実際に漁業分野の情報にアクセスしていくと様々な問題が報告されている。
世界中の漁業者は共通に、洋上風力発電プロジェクトについて、自らが知らない間に選定地が決まって唐突に説明会が始まり、漁業当局に十分なヒアリングを行うことなく、他の部局が主導する地方自治体の前傾姿勢による拙速な取り組みが行われ、事業開発者から漁業分野の科学的知見を理解しようとしない姿勢を感じていると指摘している。
一方、新型コロナウイルスのパンデミックを発端とするサプライチェーンの混乱は、ウクライナ紛争で一段と深刻化しており、輸送コストや原材料費の高騰、金利の上昇、そして、インフレにより、風力発電事業者の利益が圧迫され、内容が悪化しており、このような環境で、漁業分野を含め満足な補償等に対応がなされるのか、はなはだ疑問な状況が伝えられている。
2024年12月11日、デンマークの洋上風力タービン・メーカの“ヴェスタス”(Vestas)社は、需要の減少にともない、英国での洋上風力発電のタービンの製造を終了、拠点のワイト島の300人を解雇し、残りの300人を陸上向け小型タービンの製造に傾注させると発表した。
88か国で事業を展開するヴェスタスは、洋上ブレードの製造からより小型の陸上ブレードの製造に切り替えている。
この残り300人の雇用維持は英国政府との契約に基づいて維持されることになる。
“ヴェスタス”は洋上風力発電のタービン・ブレードの需要は終わりに近づいていると説明している。
国際環境経済研究所所長(常葉大学名誉教授):山本隆三様
洋上風力発電増加に懸念 “電気料金高騰やチャイナリスクなど問題山積”から
日本の洋上風力事業者が、競争力のある製品を導入するためには、中国メーカーに依存することが必要になる可能性が高い。エネルギー供給の重要な製品を強権国家と呼ばれる中国に依存することは、安全保障上大きな問題を生じる。欧州連合(EU)は、入札に中国メーカーが参加することを防ぐため価格以外の条件を設ける予定だが、実施は各国に任されている。その方法は、サイバーセキュリティ条件を付け、中国製機器を排除することだ。風力発電設備から情報が送られれば、中国は電力供給状況を把握しデータセンター等への供給を遮断することも可能になる。
英国のヒンクリーポイントC原発事業に中国が参加する際にも、英国内で大きな議論があったが、英国政府は、数千億円を投資する中国がその投資をドブに捨てはしないと判断し、許可を出した。しかし、ロシアのウクライナ侵略は、強権国家依存のリスクを知らしめることとなり、英国政府はヒンクリーポイントC事業以降の中国企業が参画を予定していた原発計画をすべて見直し白紙にした。エネルギー供給設備を強権国家に依存するリスクは高い。
設備よりも、もっと大きな問題もある。中国は再生エネ設備を製造するために必要な鉱物資源、レアアースなどの大半を供給している。日米欧は脱中国依存の政策を進め同盟国内からの調達を強化しようとしているが、簡単ではない。たとえば欧州委員会は、理事会、議会が昨年11月に暫定的に合意に達した重要鉱物法案を用意している。今後EU理事会と欧州議会の正式な採択を経て法案は施行される見込みだ。
重要鉱物法案の30年の目標は次の通りだ。
◎年間消費量の最低10%を域内で採掘 年間消費量の最低40%を域内で加工
◎年間消費量の最低25%を域内のリサイクルで賄う
◎1か国からの輸入量を年間消費量の65%以下にする
30年時点でも、中国からの輸入量は最大65%も想定されているが、それだけ中国依存度の引き下げは難しいということだろう。
それでも洋上風力なのか
コスト、地域への貢献、安全保障の面で、洋上風力事業にはリスクが伴う。経済が好調と言えない日本が取り進めるのに適した事業だろうか。風況が欧米よりも劣る日本が、仮に欧米と同じ額の投資額で事業を展開しても、日本の発電コストは欧米諸国より高くなる。浮体式を導入すると、コストはさらに上昇する。
産業も国民も競争力のある電気料金を必要としている。脱中国依存も重要な課題だ。洋上風力事業を強力に進める大きな理由は、他に脱炭素の有力な方法がないから、というようにも見える。SMRを含めて経済に負担をかけない方法を模索すべきだ。日本政府は、かつて成長戦略として太陽光発電事業を進めたが、中国企業支援策に終わった。また、同じことを行うのだろうか。
東洋経済ONLINE大塚隆史様は、“「洋上風力汚職」で風力発電協会の残念すぎる検証”と題したリポートの中で、秋本議員が、洋上風力の公募入札ルールについて「具体的な“味付け”をエネ庁に指示している」と強調して、入札ではヴェスタス社(デンマーク)製の風車を採用するよう企業に繰り返し求めていたと記している。
東洋経済ONLINE大塚隆史様
2024年08月30日、“「洋上風力汚職」で風力発電協会の残念すぎる検証”
検証委員の1人が「秋本議員に個人献金」の過去
「最初から着地点が決まっていた。結論ありきの検証だ」。日本風力発電協会(JWPA)が2024年7月22日に公表した「検証報告書」について、ある会員企業の社員は憤る。
JWPAは風力発電の業界団体で、約500社のメーカーや発電事業者などが加盟。近年は洋上風力に関する政策提言を積極的に行ってきたが、昨年10月に資源エネルギー庁から行政指導を受けた。「第三者の関与の下で協会の意思決定および活動のあり方等を検証するように」という内容だ。
指導のきっかけとなったのは、洋上風力を舞台とした秋本真利衆議院議員と日本風力開発・元社長の受託収賄事件だ。事件前の秋本議員は自民党に所属、再生可能エネルギー普及拡大議員連盟の事務局長を務め、風力発電の普及を推進してきた。
東京地検特捜部は、元社長が国会質問などを依頼し、秋本議員がその見返りに賄賂を受け取ったとして昨年9月に2人を起訴した。秋本議員は起訴内容を否認している。
霞が関から「出禁扱い」に
この汚職事件には、JWPAも一定の関与があったのではないかと取りざたされてきた。加藤仁代表理事は日本風力開発の副会長(いずれも当時)。ほかにも同社の関係者がJWPAの要職に就いており、日本風力開発の強い影響下にあったからだ。
秋本議員らが起訴された日、JWPAはHP上で贈収賄疑惑への関与を否定するとともに「協会活動が特定の役職員や法人の意向に左右されることはない」と意見表明した。
しかし翌月にエネ庁から指導を受ける。JWPAは、「エネ庁はおろか、環境省など霞が関全体で出禁の扱い」(業界関係者)となった。
このようなことを背景にJWPAは、東京大学先端科学技術研究センターの飯田誠・特任准教授を座長とする検証委員会を立ち上げた。飯田氏は洋上風力に関する国の審議会で委員を務めている。
同委員会は、JWPAの意思決定および活動のあり方について問題点を検証することを目的に掲げ、「贈収賄事件は検討事項ではない」(JWPA広報)とした。ただ報告書では秋本議員との関わりについても紙幅を割いている。
そこでの結論は「違法性はない」。秋本議員とは交友関係を築いてきたが、JWPAから国会で質問をしてくれるように働きかけた事実は確認されなかったとする。秋本議員のほうから、風力関係の質問をするので質問事項を提出してほしいと要請を受けて対応したときも、なんらかの利益を供与した事実は確認されなかったという。
そのうえで贈収賄事件については、検察の起訴によって協会が潔白だということは明白になったと主張。「特定の会員企業に経済的・人的に依存していたことが特定企業の発言力の大きさにつながった可能性がある」と指摘している。
国内産業への経済波及効果という点では、三菱重工が出資しているベスタスが有望だ。ほかの欧米メーカー製では経済波及効果を得られないと秋本議員は考えていたようだ。
MHIベスタスジャパンの社長は、現在JWPAで副代表理事を務める山田正人氏だ。2020年の昼食会のやり取りについて確認すると、「確かにそうしたやり取りがあった」と認めた一方で、「何の前触れもなくそういう話が出たので他事業者も聞き流した」と述べた。
だが山田氏は、報告書のメディア向け説明会の場で矛盾した発言をしている。秋本議員との間において、入札の方向性や個社の戦略に関わるやり取りは「把握している限りなかった」と言明しているのだ。
昼食会の出席者リストには、山田氏、コスモエネルギーホールディングス(HD)の子会社コスモエコパワーの眞鍋修一氏(JWPA元理事)、中村成人JWPA専務理事の名があった。この3人は今回、検証委員会の委員を務めている。現在の代表理事である秋吉優氏(ユーラスエナジーHD副社長)の名もリストにある。
自民党再エネ議連
2022年6月、洋上風力に関する提言書を萩生田光一経産相(左)に手渡しした、自民党・再エネ議連の柴山昌彦会長(中央)。秋本真利議員(右)は事務局長を務めていた。肩書は当時(記者撮影)
秋本議員とJWPAの距離が接近する契機になったとみられるのが、2020年に開催された「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」だ。この官民協議会で、アジアでも有数の洋上風力の導入目標を初めて策定した。
秋本議員は官民協議会の発案者を自負し、関係企業に自身への支援を強く求めていた。こうした秋本議員の振る舞いは、検証委員会の検証対象からすっぽりと抜け落ちている。
「(エネ庁からは)官民協議会にさかのぼって秋本先生とどういう付き合いをしてきたかは問題視されていない。さかのぼって議論する必要はないということでこの報告書はまとまっている」(山田氏)
検証委員会の人選に疑問あり
冒頭に記した会員企業の社員のように最初から検証には期待していなかったという声は少なくない。そもそも検証委員会の人選に問題があるからだという。
問題を起こした当事者やその当事者に近しい人物を排して検証委員会を設置するのがセオリーだが、JWPAは定石に反して委員を選任した。検証対象となるのはJWPAの旧体制における意思決定と活動のあり方だ。ところが3人いる協会側委員のうち、山田氏と中村氏の2人は旧体制の幹部だ。
それだけではない。元代表理事の加藤氏は、山田氏にとって三菱重工時代の上司。同じく旧体制で副代表理事だった祓川清氏(当時は日本風力開発グループ企業の最高顧問)は、中村氏のユーラスエナジーホールディングス時代の部下だ。
秋本議員とJWPAとの関係に不適切なものはなかったというわけだが、検証委員会による検証範囲はきわめて狭い。
どのような過程で日本風力開発が影響力を強めていったのか。日本風力開発の元社長が自らの思惑を通すためにJWPAに働きかけることはなかったのか等については触れられていない。一部幹部の“暴走”についてもなぜチェック機能が働かなかったのかという視点が弱い内容になっている。
2020年の昼食会での「秋本発言」
2021年12月末、大型洋上風力の事業者公募において、三菱商事などの企業連合が3海域のプロジェクトを独占し「総取り」した。それ以前の動きも検証の対象になっていない。
事業者公募の結果が出た後、JWPAは直ちに入札ルールを変更すべきだと提言。呼応するかのように秋本議員は翌年2月の国会で、事業者公募の際の評価基準の見直しを訴えた。三菱商事陣営の総取りで洋上風力への事業参入の目論見が崩れた企業の1つが日本風力開発だった。
報告書は総取りを受けたJWPAの提言について、「きわめて閉鎖的に取りまとめが行われ、不適切だった」とし、「執行部の自負や思い込みが強すぎたものと考えられる」と総括している。
この公募の結果が出る約1年前の2020年9月。JWPA会員企業と秋本議員の間で昼食会が開かれた。官房長官だった菅義偉氏が出席する予定だったが、首相に就任したため欠席。菅氏の名代として出席したのが秋本議員だった。
その席で秋本議員は、洋上風力の公募入札ルールについて「具体的な“味付け”をエネ庁に指示している」と強調。入札ではヴェスタス社(デンマーク)製の風車を採用するよう昼食会に出席した企業に繰り返し求めていた。
疑問はまだある。検証委員会で「第三者」と位置づけられた委員だ。
6人いる第三者委員の一人が、西村あさひ法律事務所・外国法共同事業の平尾覚弁護士だ。JWPAは秋本議員の贈収賄事件への対応をめぐり、同弁護士に相談をしていた。
メディア向け説明会で検証委員会座長の飯田氏は、「弁護士の仕事柄、(仕事ごとの)線引きはしっかり引かれている」と強調。説明会から数日後、JWPAの広報担当者から届いたメールには、平尾弁護士との委任契約は委員会設立時には終了しており、「客観性と中立性は保たれている」と記されていた。
利害関係のない第三者だとするJWPAの説明に、納得できる人はどの程度いるのだろうか。
第三者なのかあやふやな委員
前述した昼食会の出席リストに名があった眞鍋氏も第三者委員だ。ところが旧体制で理事を務めていただけでなく、秋本議員に5年間で60万円を個人献金していた。個人献金自体に法的な問題はないものの、秋本議員の支援者が第三者として委員に就いたことの適切性は問われてしかるべきだ。
山田氏は、眞鍋氏が個人献金していた事実は認識しているとし、「協会の過去の経緯や歴史を把握していることから選任したため、第三者としては認識していない」(山田氏)と釈明した。
JWPAからは8月29日時点で平尾氏や眞鍋氏を第三者とする報告書の内容を修正していない。これで報告書の信頼性を確保することができるだろうか。
運営体制改善の取り組みなどをまとめた完了報告書をエネ庁に提出したことをもって、JWPAの「霞が関への出禁」は解除された。JWPAは体制の改革などを進めているが、関係者の処分は行わない。「(運営ルールの不備など)協会自体の問題というのが結論」(秋吉代表理事)だからだ。
検証委員会を通じたJWPAの膿を出し切るチャンスは失われた。こうした対応を会員企業は許容するのか。社会の目は会員企業のガバナンス意識をも問うている。