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 北方領土の色丹(しこたん)島でロシア最大級の水産加工場が7月中旬にも稼働する。ロシアの水産大手「ギドロストロイ」が建設した。雇用の創出などで島の経済的自立が進めば、ロシアによる実効支配が強まることにつながる。今後の領土交渉にも影響を与えそうだ。

 ビザなし交流による色丹島への日本訪問団が5月26日、中部の穴澗(あなま、ロシア名クラボザボツク)に建設された加工場を視察した。

 加工場側の説明やロシアの報道によると、加工場は延べ床面積約7750平方メートル。マイワシ、サバ、スケトウダラを冷凍の切り身などに加工する。アイスランドなどから導入した最新の加工設備は、日量900トンの処理能力を持つ。昼夜2交代制で新たに約200人の雇用が生まれるという。

 加工場のほか、専用の漁船団、埠頭(ふとう)の整備などの初期投資約5500万ユーロ(約67億円)は、ギドロストロイの自己資金でまかなった。同じ敷地にある既存の工場(日量約200トン)を含め、ロシア最大級となる。北海道根室市の訪問団員は「水産の本場、北海道東にもない規模や設備の新しさに驚いた」と話した。

 約3千人のロシア人が住む色丹島は1956年の日ソ共同宣言に、平和条約締結後の日本への引き渡しが明記されている。安倍晋三首相とプーチン大統領は昨年11月、この宣言を基礎に平和条約交渉を開始。北方四島での日ロ共同経済活動の協議が進められ、11日には東京で外務省の局長級作業部会も開かれる。

 だが、ロシア政府は5月、色丹島への観光施設の新設など、千島列島に設定している経済特区の拡大を決めた。ギドロストロイは択捉(えとろふ)島を拠点にしている会社で、創業者がロシア上院議員を務めていた。加工場の建設には、平和条約交渉の進展を牽制(けんせい)する狙いが含まれるとみられる。(大野正美)