2023年06月22日
北海道機船漁業協同組合連合会内 一般社団法人北洋開発協会 原口聖二
[#38 洋上風力発電と漁業 海外の経験 米国 ニュージャージー州 反対派が法的・政治的に勢力を結集]
日本での先行する欧米の洋上風力発電の漁業分野との共栄、相乗効果等の成功体験は、ほとんどが開発事業者による切り抜き発信で、実際に漁業分野の情報にアクセスしていくと様々な問題が報告されている。
米国ニュージャージー州の洋上風力発電プロジェクトに反対し、停止を求める勢力は、法的、政治的な取り組みを強化している。
先週(2023年6月11日からの週)、ニュージャージー州で最初に計画されている風力発電プロジェクトの承認をめぐって、3つの住民団体が訴訟を起こした。
また、2023年6月15日、米国会計検査院(GAO)がニュージャージー州沖の洋上風力発電プロジェクトについて、漁業、環境、軍事などに影響を及ぼす可能性に関する調査を開始することを意思決定した。
“ロングビーチ・アイランドを救え”(Save Long Beach Island)、“ブリガンティン・ビーチを守れ”(Defend Brigantine Beach)、そして“私たちのニュージャージーの海岸を保護しろ”(Protect Our Coast NJ)は、2023年6月16日、洋上風力発電プロジェクト“オーシャンウィンドI”が、海岸管理規則に適合しているというニュージャージー州高等裁判所の判決を不服として上告した。
この案件は、ニュージャージー州初の洋上発電プロジェクトで、残る承認手続きを終えた時、デンマークの風力開発会社“オーステッド”(Ørsted)の米国子会社が今年2023年にも建設を開始する可能性がある。
当該上告は、反対派が長年望んでいた洋上風力発電が環境やその他の分野に及ぼす影響を調査するというGAOの決定に続くものとなる。
住民団体の弁護士ブルース・アフランは、ニュージャージー州環境保護局が、風力タービンが水棲生物資源の生息地を破壊し、海底にダメージを加えて、商業漁業資源の破壊を引き起こすこと、また、絶滅危惧種の海洋哺乳類の移動経路を侵害することを認めていると指摘、沿岸地域経済に大きな悪影響を及ぼすことになると述べ、東海岸で最も重要な海洋コミュニティの一つであるニュージャージー州の470億ドル規模の観光産業の中核地帯について、同州が損害を与えることはないと、 “奇妙な信念を貫いている”と付け加えた。
さらにアフランは、ウバガイ(ホッキガイ)漁業への潜在的な悪影響を認めた“オーシャン・ウィンドI”側の見解、“オーステッド”社が提案した緩和策を講じたとしても、商業漁業やスポーツ・フィッシングに大きな影響が生じる可能性があるという海洋エネルギー管理局(BOEM)の調査結果にも言及した。
先に、米国下院議員クリストファー・スミス(共和党:ニュージャージー州第4選挙区)は、共和党議員団の働きかけにより、GAOがニュージャージー州沖の洋上風力発電プロジェクトについて、漁業、環境、軍事などに影響を及ぼす可能性に関する調査を開始することになったと発表した。
かつてニュージャージー州では、洋上風力発電への取り組みが超党派で支持されていたが、プロジェクトの規模拡大計画と関係者の拙速な取り組みにより、現在、反対グループが台頭してきている。
これに、昨年2022年12月から今年2023年3月にかけて、死んだザトウクジラの座礁の急増が確認されたことがインセンティヴを与えることになった。
現在も民主党所属のニュージャージー州知事フィル・マーフィーが、風力を主要な動力源にすることに全力を尽くしているものの、地元の共和党議員は強力に反対しており、バイデン政権が推進する洋上風力発電プロジェクトを阻止、モラトリアムへ追い込むべく行動を活発化している。