内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

夏休み日記⑦ 清冽なる古典の泉 『竹取物語』(三) 伝承から物語へ

2014-08-10 23:00:00 | 読游摘録

 昨日の朝よりもさらに厚い雲に覆われ雨が断続的に降る中、午前十時の開門に合わせてプールに行く。昨日同様私一人。受付に立っていた監視員の方に、「嵐が近づいていますが、いつも通りですか」と聞くと、「雷が近づけば中止します」との返事。確かに遠雷が聞こえる。これではいつ中止になるかわからないと、最初からハイペースで泳ぐ。雨がプールの水面を叩き、一面に水紋が広がる中を掻き分けて進む。そうかと思うと雨がやみ、空を見上げると、薄っすらと青空が見える箇所があったりする。五十分泳ぎ、十分間の休憩に入るところで上がる。ちょうど入れ違いに一人男性が入ってきた。

 今私の目の前には、『竹取物語』の四つの注釈書があるが、作品自体が短いこともあり、いずれも解説・附説・附録等が充実していて、それを読むのがまた面白い。
 角川ソフィア文庫版の室伏信助氏による解説の「四 表現の新しい試み」は、作品冒頭の数行の助動詞、動詞、係り結び等の分析によって、伝承形式から物語形式への表現の移行を鮮やかに示してくれる(一三七-一四〇頁)。そこを読むと、助動詞「けり」によって過去の伝承として語り始められた出来事の世界の〈現在〉へと読み手を僅か数行で導いて行く道標的表現がよくわかり、日本語の「表現史の上におそらく初めて形成されたと思われる仮名による散文表現の実相」が浮かび上がって来る。作品をミクロのレベルで観察するかのようで、そこから作品全体の微細なテクスチャーへの注意力が喚起される。