内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

平安時代の神仏習合についてその時代に「身をおいて」考えてみる

2017-05-02 23:59:59 | 講義の余白から

 今日が本年度最後の講義だった。後は明日と来週火曜日に学年末試験が一つずつあるだけ。今日の講義は二年生の日本古代史。後期は平安時代について勉強してきた。その締め括りとして、宗教史に触れ、特に神仏習合現象とその社会的背景などについて日仏語の資料に基づいて説明した。
 その上で、来週の小論文の問題を予告した。いつものようにいくつかの予想問題を提示するのではなく、今回はずばり問題そのものを提示した。それはその問題が一週間の準備を必要とするほどに「手強い」問題だからである。
 私が学生たちに望んでいるのは、たとえ歴史の授業であっても、覚えたことを試験のときに「吐き出す」ことではなく、歴史の中のある一つの出来事・事実・現象について、なぜそれが起こり、それがどのような意味をその社会において当時もっていたか、さらには、それが現代社会と何らかの関係があるかどうかを、与えられた資料を元に、自分の頭で考えることである。
 だから、これが正解というような既成の答えがどこかにあるわけではない。採点基準も、専門家から見て妥当性の高い優れた考察かどうかよりも、学生たちが自分の知力と想像力とを総動員してどこまで問題を考え抜いているかに重きを置く。準備時間はたっぷり与えるのだから、当然のこととして、とても厳しく採点する。何かの資料に無批判に依拠しただけのような答案には合格点はもちろんあげない。そもそもそうさせないように試験問題を「捻って」ある。その試験問題はおよそ次のような内容である。

あなたは、日本のことについてその現代のサブカルチャーのこと以外は何も知らないフランス人学生向けに、日本古代における神仏習合についてのルポルタージュを書くことをある歴史雑誌から依頼された特派員である。タイムマシンを使って平安時代に行き、そこで神仏習合についての考えを聞くインタビューを一人あるいは二人の人に対して行い、それを元にルポルタージュを書きなさい。そのルポルタージュの中にインタビュー相手の出身・階級・職業・居住地区などを必ず明記しなさい。インタビューの相手は、僧侶、神官、公卿、天皇あるいは上皇(これには特別な面会許可が必要)、宮廷女房、国司(受領)、武士、農民、帰化人(渡来人)など、自分で自由に選んでよい。ただし、日本国内での移動費用は自己負担とする。

 出題意図は、神仏習合を日本社会一般の現象として外側から記述することに満足するのではなく、その時代の社会の中で生きる人たちのある特定の視点から事柄を見る想像力を問うことにある。ただ、あくまで現代フランスに生きる学生としてそれを記述するわけであるから、ヨーロッパ古代・中世宗教史を比較対象項として導入してもかまわない。例えば、古代ギリシア・ローマの多神教世界、その真逆の中世カトリック世界と比較し、それらといかに異なっているかに言及してもよい。そのための参考文献も三冊講義の中で挙げておいた。