内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

今年度バカロレア日本語口頭試問第二日目 ― 世界に羽ばたけ日仏ハーフたち

2017-05-12 21:45:28 | 雑感

 今日はバカロレア日本語口頭試問二日目。無事にすべての試問を終え、成績を入力し、三時間程前にコルマールから帰宅しました。これで今年度の学外任務はすべて終了です(来年度はもう引き受けませんよ)。
 今晩は、自分へのご褒美として、いつもよりちょっと高いワインを飲みながらこの記事を書いています。
 今日の午前中は、登録者が八人のところ、二名欠席。午後は昨日と同じく九名の受験者。それら全部で一五名の受験者のうち五名が、父親か母親のどちらかが日本人であるハーフで、ほぼ完璧なバイリンガル。今日はその子たちについてお話しますね。
 まず、こういう場合、口頭試問する意味、ほとんどないんです。だって、みんな評価基準を遙かに超える高いレベルの日本語で流暢に話しますからね。一応形式を守って日本語でのプレゼンをさせますけれど、その後は試験官である私の一存で「もうあなたのレベルはわかったから、あとは自由に話そう」と、楽しい「お喋り」に切り替えます。
 そうすると、彼ら彼女らもすっかり緊張が解けて、いろいろとこっちが聞いてもいなことまで話してくれるんですよ。それを聴くのがとても楽しい。主に将来何をしたいかという本人たちにとって最も重要な話題を振るのですが、皆それぞれに異なった将来の夢を描いていて、それが本当に面白い。
 科学技術の進歩の功罪と人間精神の進歩への期待について日本語として完璧で内容的にも大学生レベルのプレゼンをしてくれたのに、質問に答える段になると途端に恥ずかしがり屋に戻ってしまった女の子。幕末から明治の文明開化について自分がこれまで勉強したことをこちらの眼をしっかり見ながら堂々たる態度で発表してくれた後、フリートークでは、こちらが聞いてもいないのにデリケートな家庭事情まで話してくれた男の子。フランスに生まれ育ったのに、大学は絶対英米の大学に行って将来は金持ちになるんだ、フランスの大学に行くくらいなら死んだほうがましだ、とユーモアたっぷりにその決意を話してくれた男の子。いじめの問題について見事なプレゼンをしてくれて、何よりも大切なのは悩みを独りで抱えずに誰かにそれを打ち明けること、自分も実はそのために自分のフランスの高校のクラスで学級委員として先生といじめられている生徒といじめている生徒との間に立って問題解決のために動いたことを熱を込めて話してくれた女の子(彼女はもうカナダの大学への進学が決まっている)。アルペンスキーでフランス人としてオリンピックを目指していたけどそれは自分には無理とわかって、今は世界をまたにかけるマネージメント会社を将来立ち上げるためにカナダの大学に進学したいと思っているイチローに憧れている男の子。
 彼ら彼女たちの話を聴いていると、本当に心から応援したくなるのです。もちろん、それはすべての受験者に対して思っていることではあるのですが、別にナショナリストじゃないけれど、日本人の「血」が流れている彼らには、やはりより親しいものを自ずと感じてしまうのは事実です。
 他方、今日、ストラスブールへの帰りの電車をコルマール駅のホームで待っていたら、昨日口頭試問を受けた地元高校のフランス人の女子生徒三人が日本語で「先生、こんにちは」と話しかけて来ました。「あれ、これからストラスブールに行くの?」と聞いたら、「いいえ、これから家に帰るところです」と笑いながら反対側のホームを指差して、楽しそうに三人でお喋りしながら階段を降りていきました。
 帰りの電車の中、青く晴れ渡った空の下のアルザスの風景を眺めながら、こうして気持ちよく一仕事終えられたことに小さな充足感を覚えることができた一日でした。