内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

路上で拾ったK先生の古ぼけた黒革手帳から ③ ― 事実と虚構

2018-07-10 23:59:59 | 哲学

 K先生がキャンパス近くの路上に落とした黒革手帳の次の頁には、その一番上の行に「事実と虚構 fait et fiction」とブルーブラックの太字で記されています。これは万年筆で書いたものでしょう。そのすぐ下には、ブルーのボールペンで「事実と虚構との関係。現実に内在する虚構。現実世界の虚構性。虚構世界の現実性。現実世界へと至るための媒介としての虚構。虚構の存在論的価値。現実世界の鏡としての虚構世界。現実と虚構の重ね書き。可能世界論」などと細字で列記してあります。そして、その下に三つの書名とそれぞれについての簡単なコメントがやはりブルーの細字で記されています。
 一冊目は、Thomas Pavel, Univers de la fiction, postface inédite, Seuil, coll. « Points Essais », 2017 (1re édition, 1988[le titre original, Fictional Worlds, Harvard University Press, 1986]) 。「事実と虚構との境界が想像力に与えられる権能に応じて可変的であることを文学的テキストに即して考える方法論を学ぶ上でまず読むべき」とメモされています。
 二冊目は、Jean-Marie Schaffer, Pourquoi la fiction ?, Seuil, coll. « Poétique », 1999 です。「ヴィデオゲームのヴァーチャル・リアリティを不毛な空想と見なすことへの根本的な批判の一つがここにある」のだそうです。
 三冊目は、Françoise Lavocat, Fait et fiction. Pour une frontière, Seuil, 2016です。「1990年代から現在までの、事実と虚構、現実と想像の間の境界を巡る議論の批判的総覧。認知科学の最新の知見を取り入れている。考察は政治的次元にまでその射程が及んでいる。必読」とあります。