K先生の黒革手帳の最初の頁の一番上の行には「2011年1月29日」と日付が入っています。その頁には、二行目以降、細字の几帳面な字体で仏語のメモがぎっしり書き込まれています。第二頁以降もしばらくは同じような調子で頁いっぱいに断章が記されていますが、徐々に日付の間隔があくようになっていきます。
興味深いのは、赤・青・緑・黒の四色ボールペンが使われていて、それぞれの色に違った意味が与えられていることです。必ずしも常に厳密な使い分けというわけではありませんが、およそのところ、赤は特記事項、青は主要案件、緑は補足事項、黒は文献情報となっているようです。
ところが、手帳の後半になると、字体が徐々に乱雑がなっていき、色の使い分けも少なくなり、あったとしても一貫性がなくなっていきます。それと同時に、表記内容も断片的になり、それだけ読んでも意味不明な単語の羅列が目立つようになっていきます。
つい最近のメモには、なんとかそうした傾向に歯止めを掛けようとしているかのように、ときに記述にいくらかのまとまりが見られるようになってきています。
昨日の記事で取り上げた頁の次の頁の第一行目には、「人間の根本的存在様式としてのメランコリーの系譜」とブルーブラック・インクの万年筆で記され、同じ色のインクで囲まれています。
その下には、以下の書名だけが列記されています。
Aristote, L’Homme et la Mélancolie, Rivages poche, 2006 [1re édition, 1988].
Ludwig Binswanger, Mélancorie et manie. Etudes phénoménologiques, PUF, 1987.
Jackie Pigeaud, La maladie de l’âme. Etude sur la relation de l’âme et du corps dans la tradition médico-philosophique antique, 3e édition, Les Belles Lettres, 2006 [1re édition, 1981].
—, Poétique du corps. Aux origines de la médecine, Les Belles Lettres, 2008.
—, Folie et cures de la folie chez les médecins de l Antiquité gréco-romaine, Les Belles Lettres, 2010 [1re édition, 1987].
—, Melancholia. Le malaise de l’individu, Rivages poche, 2011 [1re édition, 2008].
Jean Starobinski, L’encre de la mélancolie, Seuil, 2012.
Jacqueline Pigeot, « Une figure de la mélancolie au Japon : la femme qui attend ». In L’Âge d’or de la prose féminine au Japon (Xe-XIe siècle), Les Belles Lettres, 2017.