内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

困難な時の恵み ― 外出禁止令期間中に見出された時間をポジティブに生きた人たち

2020-05-11 23:59:59 | 雑感

 外出制限令段階的解除初日の今日、生憎というか幸いにというか、朝から雨、気温も昨日と比べて十数度一気に下がり、さあ今日から「自由に」外出できるぞと逸る気持ちに自然が水を差してくれた。昨晩、フランス南西地方は集中豪雨に見舞われ、洪水や土砂崩れが起こって道路が寸断された村もあるようだ。コロナウイルス禍の打撃が比較的軽かった「グリーン・ゾーン」の地方も別の自然の猛威に曝されてしまったわけである。
 外出禁止令が発効してからの二ヶ月間、ネットでコロナウイルス関連のニュースを検索するのが日課になってしまった。今朝もさまざまな記事に目を通していて、アルザス地方紙のある記事が目に止まった。
 それは外出禁止令下の二ヶ月間をむしろポジティブに生きた人たちの証言を集めた記事だった。もちろんこれは一部の人たちの感想に過ぎない。外出禁止令期間も問題なく仕事を続けられた人、収入に心配のない人、もともと恵まれた生活環境で暮らしている人たちなどである。
 彼らは、この間、以前よりも家族と一緒に過ごす時間が長くもてたり、他にすることがないからこそゆっくりと読書に沈潜することができたり、以前は挨拶程度だった共同住宅の隣人たちとときに中庭でバーベキューを囲んで歓談して仲良くなったり、それまで日々の仕事に追われて脇にのけていた中長期的な仕事のプランをじっくりと練ったり、忙しくてできなかった趣味の手芸を再開したりと、それまでとは違った時間の過ごし方を経験することで、これまでとは別の時間、或いは、これまで見失われていた時間の価値を見出したのだ。
 彼らは、大きな声では言えないけれど、と前置きした上で、「まださらに二ヶ月間続いてほしいくらい」、「これで終りかと思うと涙が出てくる」などという感想をインタビュアーである記者に電話口で囁いたそうだ。こんな記事を読んで、「ふざけるな! こっちがどれだけ大変な思いをしているかわかっているのか!」と怒り心頭に発する人たちももちろんいらっしゃるだろう。その気持ちもよくわかる。
 ただ、自由に生きられないからこそ見いだされた(あるいは再び見いだされた)時間の経験を今後に生かせるかどうかで私たちのこれからの生き方は大きく違ってくるとは言っていいだろう。